今月の季語 七月 夏の風
〈風光る〉は三春の、〈風薫る〉は三夏の季語として歳時記に載っています。風に光より香りを感じるようになるのはいつかと考えると、それはきっと初夏でしょう。〈風薫る〉は五月に使うと最も鮮度が高くなりそうです。
ではそのあとの長い夏の間は、どのような風が吹くのでしょう。今月は〈夏の風〉についてみていきましょう。
夏の風は、南もしくは南東から吹くことが多いです。〈南風〉はそのまま「なんぷう」「みなみかぜ」と読んで夏の季語ですが、「みなみ」「はえ」という読み方もあります。強く吹くときには「大」を付けて〈大南風〉(おほみなみ)といいます。
南国に死して御恩のみなみかぜ 摂津幸彦
黒潮の行き渡る南風強ければ 伊藤通明
各地に固有の風の名前もあります。〈まじ〉〈くだり〉〈ひかた〉〈あいの風〉〈だし〉〈やませ〉など。実感を伴うことがあったときに使ってみましょう。
能登人があい吹くといふ日和かな 村山古郷
やませ来るいたちのやうにしなやかに 佐藤鬼房
色で呼び分けることもあります。梅雨を呼ぶ風を〈黒南風(くろはえ/くろばえ)〉、梅雨明けの風を〈白南風(しろはえ/しろばえ/しらはえ)〉といいます。
黒南風の辻いづくにも魚匂ひ 能村登四郎〈仲夏〉
白南風やマストにかはるがはる鳥 土肥あき子〈晩夏〉
色といえば〈青嵐〉もはずせません。三夏の季語ですが、若葉より青葉と呼びたくなるころの強風と捉えて使うと、〈風薫る〉同様、鮮度が高くなりそうです。
紀の川を吹きてくもらす青嵐 右城暮石
植物の名前が付いて明らかに期間限定の風もあります。
茅花の穂綿がほころびるころの風を〈茅花流し〉、筍の旬の風を〈筍流し〉、麦秋のころの風を〈麦嵐〉〈麦の秋風〉といいます。
遅れゆくひとりに茅花ながしかな 片山由美子〈初夏〉
月山の裾の筍流しかな 水内慶太〈初夏〉
鶏の群麦の秋風に吹かれゐる 松瀬青々〈初夏〉
白い穂綿を吹きなびかせる風と、金色に熟れた麦畑を吹き渡る風―これらも色のある風といえましょう。
「熱さ」で表す風もあります。
熱風の黒衣がつつむ修道女 中島斌雄
どこからか吹いてくる風を「涼し」と感じて、ほっとすることもあります。いずれも晩夏の季語です。
涼風の曲りくねつて来たりけり 一茶
涼風の一塊として男来る 飯田龍太
断然〈涼風(すずかぜ/りやうふう)〉の用例が多いです。
風がぴたっと止む現象を指す季語もあります。
合はせ酢をつくる厨に風死せり 岡本差知子
朝凪といへども浪は寄せてをり 平井照敏
夕凪を詫び遠来の客迎ふ 鷹羽修行
どれも暑そう。さてこの夏はどの風を詠みますか?(正子)
