今月の花(九月) 栗の実
8月初めのロンドン。南西部にある(キュー王立植物園)キューガーデンに入った途端、芝生の薄茶色にショックを受けました。
5週間雨が降らず、個人の庭にホースで水を撒くのは禁止。気温34度も数日記録して、もうここはロンドンではないわ、今頃は芝生が青々しているのに、と滞在させていただいた家の知人はため息をつきました。
わずかな場所を除き、120ヘクタールのキューガーデンの庭全体に水をやるのは当然不可能で木々も枯れ葉が見られ、中には茶色になって地上に落ち始めているところもありました。
道をたどっていくと一本の大きな栗の木をみつけました。高さは何十メートルあるでしょうか。近くに寄ってみると夏の光を浴びる葉の茂りから緑の小さな実がたくさん。芝生の薄茶色との対比はその木の頼もしい存在を際立たせ、親子がその下で飲み物を取り出し休んでいるのを見ると、ふとある歌が浮かびました。
“大きな栗の木の下で”。中学生のころ野尻湖に行ったとき、キャンプファイアを囲み歌った歌の一つです。もとは英国民謡ときいています。
栗の木は、ここは大丈夫と言っているかのように堂々と立ち、誰でも迎え入れると言わんばかりに長い枝を周囲に広げていました。木肌の整っている幹の様子になんと美しい木だと思いました。日本でこんな大きな栗の木は見たことがありません。
2003年には世界遺産に登録されたキューガーデンには4万種以上の植物が植えられ,温室もいくつかあります。英国というとバラのイメージがありますが、数十年前、ここに関係していた英国人の知人のおかげで石楠花の好きな私はバックヤードに植えられていた様々な色の満開の石楠花の中を歩く幸運に恵まれました。
そこにあった石楠花はあくまでサンプルと研究のために植えられているという説明を受けました。種や標本やデータなどを世界各地から情報を集めている世界一の植物の研究機関として知られています。
あ、キツネがいる、という声にふりむくと 一匹のきつねが芝生を走り抜けていきました。
日本では近年、熊の被害が多く、熊を人里に近づけさせないため、実がなる樹木を切る地域も出てきて栗もその中に入っていると聞いています。丹精込めて育てたものを切り倒す、その気持ちを思うと、この世界に知られる研究機関が植物からの観点で熊と人との共存の提案がされないものだろうか、とふと思った夏のロンドンの旅でした。(光加)
