今月の料理(十一月)紅茶のトースト
「あ、おふくろと同じことしてる」一口残った紅茶にお砂糖を加え、これも一口残ったトーストの耳を浸して食べようとした時、一緒に食事していた友人が声をあげました。
バターの風味と紅茶は中々相性がよく、プルーストの小説ほどスマートではありませんが、そこは天下の一人暮らしちょっと行儀が悪くてもおこごとを言う人はいません。
マドレーヌはプルーストの「失われた時を求めて」で一躍脚光を浴びた感じがあります。小説の主人公が硬くなったマドレーヌを紅茶に浸してそれを口にした瞬間、幼い時の幸福な気持ちが蘇ったと言う一節がとりわけ有名なようです。焼き菓子の代表のようなマドレーヌですがどちらかと言えばシンプルなお菓子です。もちろんシンプルなものほど材料を吟味しないと美味しくありません。お店によっても値段が随分と違うのはその辺りにも理由があるのでしょうか。
いつ頃からかは知りませんが嗅覚や味覚から蘇る過去の記憶を「プルースト効果」とか「マドレーヌ効果」と言うそうです。嗅覚は視覚や聴覚と違い、感情など本能をつかさどる脳の中枢に直接作用するため、「匂い」によって呼び起こされる記憶は視覚や聴覚と比べ忘れにくいと言われています。また、味覚のアンテナは甘い、辛い、酸っぱい、苦い、美味いの5つ。触覚もやはり5つぐらいですが嗅覚はなんと1000種類ものアンテナがあるそうです。「香り」に伴った記憶や思い出が強く長く残るのはそのような事に由来するのかも知れません。
トーストの耳からとんでもない方へ話が行ってしまいましたが今月の料理は紅茶のトースト。秋晴れの朝パンを焼く匂いは炊き立てのご飯やお味噌汁の匂いとともに、何とも心を穏やかにしてくれるものです。作り方はいたって簡単。トーストしたパンを紅茶に浸しフライパンにたっぷりのバターを溶かして焼くだけです。コツは少し濃いめに紅茶を入れる事また、少々ブランデーを加えても香りが立ちます。パンの塩味がきになる方は無塩バターをご使用下さい。焼き上がったらお砂糖をふりお好みでママレードを添えても。