今月の花(三月)小手毬の花
小さな白い花が集まった球状の塊が枝にびっしりとついている小手毬は 春も進んできたころに庭や公園でよく見かけます。高さはせいぜい人の背くらいでしょうか。
花を際立たせているのが、大きくなるとすこしひし形になる楕円形のやわらかい緑の葉です。
花屋さんでは二月になると、もう小手毬が店頭に並びます。山茱萸や連翹、万作、また啓翁(敬翁)桜などいわゆる花木(かぼく)をいける時、まだ枝に葉が出ていなかったり、出ていても小さく、花もつぼみだったりすると枝そのものが目立ちます。 外の空気もまだまだ冷たく感じられる頃、枝だけではなんだか寒そうですが、葉のでてきた小手毬を加えるとたっぷりとした春の先駆けの組み合わせになります。
小手毬はバラ科の花の特徴で花弁は五枚、その小さな花が集まってひとつの半球をなすのには、花弁は何枚必要なのでしょうか。
極小の緑の蕾が白く開いて花が目立つようになり、そのうちひとつひとつの毬の形がはっきりしてきます。次々と開きはじめ、満開となった花で枝が埋め尽くされてにぎやかになります。やがて黄色い花粉がひとつひとつの小さな花から落ちはじめます。
小手毬をいけた次の日どうしても現場に来られず、手入れも行き届かないだろうとみると、私はどんなにきれいでも黄色い花粉がめだつ”手毬”は枝から切ってしまいます。切った花が吸ったであろう水分が、ほかの花にまわって咲いていくと考えます。
ある日のお稽古でアジアの国の方が小手毬の満開の枝数本をワイヤーで止め、先がくるくる回る枝と格闘しながら白い花の集合した面を作っていました。
とてもきれいでしたが、お稽古が終わりワイヤーを外した時ぱっと枝同士が離れしだれた様子を見て、私なら小手毬の美しさは空間に放りだされたような花の表情を取ると思いました。
花が終わってからも、葉が厚くなり裏面の緑も少し薄くなって成長したころをいけることもあります。
そして、葉の付いた枝の花材がなくなる秋のほんの一時、黄色や紅茶色に紅葉した葉の小手毬をいけることもあります。手に取ればすぐに葉が落ちる様子から、枝の内側ではもう葉を終わらせてエネルギーをため込み次の春の準備をしているのだ、というメッセージが伝わってくるのです。(光加)