a la carte_カーネーション(なでしこ科)
母の日の贈りものは、やはり花が多いとか。なかでも定番のカーネーションは、今では赤いものだけでなく、バイオ技術のおかげで紫や青に近いものや、形も大きさもさまざまなものがあります。
母の日にこの花をおくる起源は、亡き母をしのんで集まってくれた知人たちに、娘が白いカーネーションを配ったというアメリカでの話で、20世紀の初頭のことです。
メキシコのある街にデモンストレーションに行ったとき、市長主催の歓迎晩餐会に、主賓として招かれました。3日前に助手と一緒に日本から到着、次の日メキシコ市で慣れないテレビに出演というプログラム。それが終わると休む間もなく、用意された車にスーツケース、メキシコ支部から拝借した花器や道具が積み込まれたのを確認し、数時間かかって次のデモンストレーションを行うこの街に到着したのでした。時差もあり3日目は疲れきっていました。
陽もすっかり落ちた頃、市長公邸につき、足元を照らす灯りにいざなわれ、ドアのところでは赤いモールに白手袋の制服の武官から敬礼をうけ、一挙に緊張しました。晩餐会という情報に 普段は海外には持っていかないきものに着がえてよかったと思いました。
広いダイニングに入ったとたん 目を捉えたのは 壁にかかげられた、横が120センチくらいの大きな日本の国旗でした。近づくとそれは全部赤と白の生のカーネーションで出来ていたのです。席に着いて見回すと 80人と聞いていた招待客の中には日系の方たちもたくさんおいでになることに気がつきました。
食事が終わると、数名の日系のかたたちが私に近づいてきました。「よくこの街まではるばるおいでくださいました。私たちはずっとここで花を作っています。市長公邸での晩餐会に招かれたのは初めてです。先生のおかげでいい思い出になりました。」
私は戸惑いました。感謝される人は他にいる。首都だけでなく、ぜひ地方の都市でもいけばなを見せたいといってこの街をプランに入れた国際交流基金のTさんを振り返りました。
カーネーションは節のところで折れやすいのですが、花首のみの使用であれば水につけなくても半日はしおれる事はありません。日本のホテルでも社長就任のパーテイーで大勢の人の中から社長の位置をあらわすため、カーネーションで作られたボールを棒の先にさし、後ろで人が高く掲げているのを見たことがありす。
この日系の方たちは市長主催の大事な晩餐会での万一の事を考えて、始まる直前まで自分たちの栽培した花で作った国旗を点検していたに違いありません。お礼を言わなければならないのは、そのことをよくわかっている私なのでした。
この日のために選りすぐられ、心をこめて作られた赤と白のカーネーションの日本の国旗。それは間違いなく日本の国を誇っているようでした。皆さんに会え、いけばなをしていてよかったとあらためて思ったのでした。(光加)