この季節、日本を訪れる外国の人たちが楽しみするのが桜、そして観光客は日本の桜の種類の多さに驚きます。
次々と咲いていく多くの種類の中で、私は四月も最後の方に咲く薄緑の桜、鬱金桜や御衣黄桜が気に入っています。
桜の中でも濃い目のピンクや文字通りの桜色、白に近いピンクなどがある中にともすれば見逃してしまうような薄緑の少し黄色がかった色の桜は、もうお花見も終盤にかかった時に咲きだします。
鬱金桜は八重咲の薄黄緑色で、開いたときは直径四センチにもなり垂れ下がって咲きます。
御衣黄も八重咲で12~4枚の花びらは薄緑色からやや黄色、花が終わるころになると花の中心に紅色の筋が出て来るのが特徴です。花弁の中に葉緑体があり、新芽や新緑の間で見過ごされがちですが、見つけた時はうれしくなる桜です。
御衣黄桜は江戸時代に仁和寺で栽培されシーボルトも持ち帰ったともいわれています。
私がこの仁和寺を訪れた時は御室桜(おんむろざくら)が見事でした。数えきれない桜の木は、すこし白がかったピンクの花が薄曇りの空の下に今を盛りと誇らしげに咲いていました。背の低い枝はそれぞれ個性的な形をしていました。その日は時間が限られていたこともあり御衣黄桜は見つける事はできませんでした。
「御衣黄」とは貴族のまとっていた衣の萌黄色に近い色のこと。平安の貴族たちは庭に桜を植え、自分のまとっている萌黄色に近い桜を見てみたいと漠然と思ったのでしょうか。その夢は江戸時代になって実現されました。
数週間前、幼稚園からお母さまとお稽古に通っていたお嬢さんが 大学合格の知らせをもってお稽古に復帰のご挨拶にみえました。ご両親の転任で外国に何度もおいでになったり、受験勉強だったり中断はありましたが、いけばなが好きなのでしょう。お稽古の啓翁桜を大事に持って帰りました。その時、京都のお土産にと有名なお店の金平糖を頂きました。
薄い緑とピンクの金平糖は、桜が咲くころには売り切れてしまうそうです。小さなピンクと薄緑の金平糖は、塩漬けの桜から長い時間かけて作られる人気のお菓子です。
春は心の中にも何かが目覚める季節。桜の開花宣言や列島を花が駆け上るニュースをを聞いたり、実際に花の下を歩いたりする時つい背伸びをしたり深呼吸をしてしまうのは、日本人のDNAに桜が特別に刷り込まれているのでは?とさえ思ってしまいます。
桜の花がほころび始めると、それを見ている人たちの表情も桜と同じようにときほぐれていきます。満開の花の下、様々なことはひとまず置いていい表情をみせている人たちも、桜からの贈り物の一つかもしれません。(光加)