新緑の美しいころとなりました。若葉青葉の梢を仰ぐと、定かに見えないほど高い位置に花をつけていることがあります。樹下に散った花を見て気づくことのほうが多いでしょう。
今月は落葉高木と呼ばれる木々の花を追ってみましょう。
電車いままつしぐらなり桐の花 星野立子
桐の花らしき高さに咲きにけり 西村和子
一家に女の子が生まれると、嫁入り道具を作るために桐の木を植えた時代があります。立子が車窓からみとめたのは、そうした一幹でしょうか。
花咲きて水木は枝を平らにす 八木澤高原
山野に自生する「水木」が咲くのは〈夏〉、街路樹に多い「花水木」は〈春〉。別種です。水木は咲くと遠目に雲がかかったようにも、雪をかぶったようにも見えます。
ゆりの木の花に夜は星宿らむか 岡部六弥太
昨今では街路樹としてよく使われる「ゆりの木」です。チューリップツリーともいいます。チューリップのような(私はランタンのような、と思っています)花をつけます。
うやむやにけむりひとつばたごのはな 須賀一惠
「ひとつばたご」の花は白くもしゃもしゃしています。この木には「なんじゃもんじゃの木」という名もあります。
満月に花アカシヤの薄みどり 飯田龍太
アカシア(ニセアカシア)には「針槐(はりゑんじゆ)」の名もあります。白い蝶の形の花を密集させます。
ひろがりて雲もむらさき花楝(あふち)古賀まり子
仰ぎ見る楝の花のちる音か 山西雅子
「栴檀(せんだん)」ともいいます。双葉より芳しい栴檀はビャクダンのことで別種です。花は薄紫。
えごの花散りたる水にはづみけり 早野和子
こぼれつつえごは五月を送る花 村上鞆彦
釣鐘状の乳白色の花を下向きに無数につけます。散るというより、花ごとほたほたと落ちます。
火を投げし如くに雲や朴の花 野見山朱鳥(落葉高木)
あけぼのや泰山木は臘の花 上田五千石(常緑高木)
朴の花と泰山木の花はよく似ています。どちらも象牙色で、芳香があります。落葉するか、常緑かの違いもありますが、葉の質感はまるで異なります。泰山木の葉は厚手で光沢があります。朴の葉はかさかさして大きく、裏が白いです。「朴葉味噌」のような用途にも使われます。
その上の雲より白く山法師 林 翔
「山帽子」と書くことも。庭木にもされますが、本来は山野の木です。花水木の白花〈春〉と似ていますが、山法師は夏に咲きます。
特徴的な木の花を取りあげましたが、文字だけで理解するのは難しいです。図鑑を持って(検索できる機器を携帯して)山野へ出かけてみましょう。(正子)