à la carte_カリンの実(バラ科)
カリンで思い出すものといえば、のど飴とか咳止めと答える人も多いでしょう。
カリンの実の中には ビタミンCはもちろん、クエン酸、りんご酸などが入っていて、生では食用に適さないかわりに果実酒にして飲んだり、砂糖漬けにしたりします。似たようなものにマルメロがありますが、こちらはばら科でもマルメロ属で、カリンはボケ属です。
春には5片の花びらを持つ淡い赤い花が咲きます。実を結ぶ他の花と比べれば大きめの花ではありますが、秋にあんなに大きな実がなるとはこの花からは想像が出来ません。実の重さを計ってみると、中には五百グラム近くのものさえあります。
秋になっても実がたわわになっている光景に外ではあまり出会えないのは、枝に直接ついているかのような実の構造と、枝の太さに対して重さが結構あるのでどうしても落ちやすいのです。
展覧会などの作品のために、枝にたくさんカリンの実がほしいという場合は 落ちたカリンに穴をあけ元の木や枝を刺さりやすいよう斜めに切ってそこにカリンの実を刺します。これを私たち仲間では(刺し実)などと呼んでいます。よくみると不自然かもしれませんが、カリンの運搬や性質を考えれば仕方のないことです。
自然界には驚嘆する事がたくさんあります。決まった鳥や虫やけものたちの力を借りての受粉、寒暖から身を守る植物の巧みな構造。中には毎年自然に発生する山火事を機会に実が開いて種を遠くに飛ばす、という植物もオセアニアにあるそうです。
方やカリンの実は大きくなりすぎてわが身をもてあまし、やがて自分の重みで落ちてしまうわけなのでしょうか。枝の太さとか、強さとかバランスとか性質を考えながら大きくならないのでしょうか?いやいや、これだけ実が大きければ鳥も落とそうとすれば苦労するだろう、動物が枝に登って落下させるのに成功したとしても、人が生のまま食べるのに適さないのなら、あるいは動物だって食べないかも。そう悟ったカリンの実は大きくなっていって、この時だ!と見計らい、子孫を残すため、わざと自分から落ちるような構造になっているのか。落ちたカリンの実を手にしてしばし思いました。そう考えればコヤツ、結構、知恵者なのだろうか。
すこしごつごつとした肌。オリーブグリーンが強い黄色の鈍く光を放つ皮の下からは甘く深い独特の香りが漂ってくるのみです。(光加)