今月の季語(11月) 冬の日
今年は残暑が長引かずに助かりましたが、〈秋冷〉を飛び越して一気に真冬並の寒さに見舞われることもあって、震え上がっています。十一月七日には立冬を迎えますが、果たしてどんな冬の日々が待っているでしょうか。
冬の日の海に没る音をきかんとす 森 澄雄
冬の日や臥して見あぐる琴の丈 野澤節子
森澄雄の〈冬の日〉は冬の太陽を指しています。没日の音を心で聴こうとしている句です。野澤節子のほうは冬の一日でしょう。病に伏している作者は、綺麗な縮緬に覆われて立て掛けられた琴を、目で弾いているようです。病室となっているその部屋には、暖かな日差しが満ちているに違いありません。そう、冬の一日といっても日差しのある間のこと。〈冬の暮〉〈冬の夜〉に対する語と受けとめるべきでしょう。
冬の日の三時になりぬ早や悲し 高浜虚子
虚子の句も冬の一日を言っていますが、あたりが急速に翳っていくさまを感じ取っている私たちの脳裡には、三時の低くなった日輪が浮かんでいるはずです。空に日のある時間の短さを惜しみ、慈しむ季語と言えるでしょう。
ストレートに日差しを詠むときには、〈冬日差〉〈冬日影〉を用いることもできます。〈冬日影〉は影のことではなく、日差しのことです。
行く馬の背の冬日差はこばるゝ 中村草田男
とがりたる肩診てあれば冬日影 横山白虹
これらが三冬通して使えるのに対し、初冬限定の季語があります。〈小春日和〉です。小春は陰暦十月、おおよそ今の十一月の異称です。〈小六月〉とも言います。ですから、うらうらと穏やかな日を意味する小春日和は、十一月の暖かさをいうと思えば間違いないでしょう。
玉の如き小春日和を授かりし 松本たかし
「玉の如き」の心は、玉のように貴重な、であり、玉のようにまどかな、でしょう。なにしろ〈冬の日〉はすぐに暮れてしまうのですから。柔らかな冬の日が降り注ぎ、包みこむ空間は、文字通り玉(球)のようです。
このように〈冬の日〉はSUNの意味にもDAYの意味にも使えますが、SUNを表すときは天文季語、DAYを表すときは時候季語となります。〈小春〉や〈短日〉も時候季語です。
歳時記には「時候」の章はトップに、「天文」は二番目に置かれていることが多いです。解説と例句はそれぞれ別に掲載されていますから、注意深く参照してください。
玉の如き日々を期待しつつ。 (正子)