まゆみ
「あら!私の木だ!」
お稽古に来たまゆみちゃんが驚いたのは、ピンク色の実が華やかにいくつも下がっている枝を見た時でした。まゆみは檀、真弓とも書き、女の子の名前によくつけられます。
ニシキギ科に属し、5メートルくらいの高さにもなりますが、花は目立ちません。しかしなんといってもこの木の一番の見ごろは、秋が深まり、1センチほどの大きさでくっきりと4辺の稜がある実が枝から下がるころです。色は濃いピンク、淡紅色、そして白に近い色もあり、やがて4つの稜の先がわれ、中から種を包んでいる赤い仮種皮が現れて、枝は一層にぎやかになります。
この日本原産の木が濃いピンクの美しい実をつけているところを、ドイツでも見たことがあります。シーボルトが日本から持って帰ったたくさんの植物の中にあったのでしょうか。
楮や三椏のように古くはまゆみはその皮をはぎ、漉かれて紙として使用され、檀紙と呼ばれました。今でも作っているところがあると聞いています。
枝に弾力性があるところから、かつては弓の材料として用いられ、真の弓として、真弓とも表記されました。
生まれてきた女の子にこの名前をつけた人たちは、その子がまゆみで作られた弓のように、矢をつがえて引き絞った分だけ力をため、放たれた矢のごとく悪を払って困難を跳ね返してほしい。そして秋には美しい実を結ぶがごとく、その子の人生が豊かなものとなるようにという願いをこめて名前を選んだのでしょう。
弓を作る植物としては竹もあります。雪の朝、竹が雪をはね返すしずりの瞬間を見れば、その力強さは弓を作るのに欠かせない竹の性質だとわかります。
梓(あずさ)もかつて弓の材料でした。あずさゆみーという枕詞は植物の梓からきていて、弓という言葉から引く、張る(転じて春)などの言葉を引き出します。別名みずめといい、春、山の中で木々の中に、垂れ下がった花序を付け、それが9センチくらいにもなるものがあったらこの梓かもしれません。檀と同じく女性の名前にもなっています。
檀や梓のように女の子の将来を植物の性質に託し、願を込めた名前をつけることは、日本ならではのことなのでしょうか。日本人ではない友人たちの顔を思い出し、今度名前の由来と意味をきいてみたいと思っています。(光加)