アスパラガス ルツイィ(ルトジ)
2月、凍てつくようなフィンランドのヘルシンキで、デモンストレーションを依頼されました。最後の大作にぱっと目を引く花材がほしかったのですが、花市場では見つかりませんでした。長年の私の門下のリサの家でその話をしていると、
「そうそう、納屋の奥にあったわ!先生がおいていったアスパラガス!ほら、ずっと昔のアートセンターのいけこみの時の!」。
部屋に持ち込まれた埃っぽい段ボール箱は180cmx20cmくらい。アスパラガスといわれても合点がいきませんでした。ふたを開けて中を改めようとしたとたん、パラパラとこぼれる水色やピンクのもの。着色されたルトジの乾ききった葉状枝(葉のように枝が変化したもの)でした。包んであった日本の新聞の日付は1992年となっていて、確かにこの年、リトレッティ アートセンターで私は花をいけました。
アスパラガスの仲間にはスマイラックス,てんもんとう、ミリオグラタスなどがあります。かつて花束のボリュームを出すためによく使われたアスパラは古くなると細かい葉が緑の粉のように落ちるのに困った方もあるでしょう。
アスパラガス ルツイィは「ルトジ」とよばれ、2m位にも伸び、乾燥させて色を付け大きな作品にふわりとかけたり、滝のように垂らせたりします。他のアスパラガスと同じく軸はしっかりしています。
当時教えていた東京のギャラリーがフィンランドの催しに参加。スタッフのT君が私のアシスタントとして脚立に登り、ルトジをいけるのを手際よく手伝ってくれました。数年後、病に倒れ30代で逝ってしまったいけばな好きだったT君よりこのルトジはずっと長く、ここでひっそりと生き延びていたのでした。
デモンストレーションの当日、最後の作品にと幹がしっかり残っていた白、ブルーやピンクのルトジを手にすると、T君と一緒にいけているような感覚に陥つていました。参加者たちは大いなる興味を示し、どこで入手できるかと聞かれました。英国ジャージー島からやってきた旧知のHさんによろしかったら、と進呈しました。春は花いっぱいのあの島でもルトジは語り継がれていくのでしょうか。鋏を入れればそれまで、されど植物であるがゆえのしっかりとした芯をもつルトジの強さを異国で私は改めて実感したのです。(光加)