ういきょうの花
茎の分岐したその先に小さな黄色の花々をつけ半円球を描くういきょうが咲き始めればまもなく春爛漫を迎えるしるしです。中が空洞な茎は暖かな光を受け、緑の色を深めていきます。数本を集めるとたくさんの緑の線の上に黄色い霞がただよっているかのようです。
中国から渡ってきたういきょうは英名フェンネルといい、茴香と書き、字のとおり手に取ると香りがします。
葉は細く分かれて糸のようになってやわらかく、昔、フランス料理の教室で鮭の料理を習ったとき使ったか細い葉は、当時はまだあまり知られていないういきょうの葉だったと後で知りました。臭みをとるためで、肉料理にも用いられます。
ハーブとして使用する他、日本でも早くから漢方薬として胃薬、利尿剤、痰きりなど広い範囲で使われてきました。
イタリアウイキョウはフィノッキオと呼ばれます。ヨーロッパなどの市場やスーパーの野菜売り場に、短く切られた濃い緑の葉の元に大きくなった白い鱗茎をつけてごろりと並べられます。初夏に訪れて、ああ、この季節だなと思うのはこんな野菜を目にした時です。生の状態でも食べられますが、スープなどで出てくると、同じせり科のセロリのような食感と独特の味で甘みのなかにかすかに苦味もあり不思議な食材です。
フランスのリキュールで度数40度以上というパスティスにも、ういきょうは入っています。パスティスはアニス風味が強く水やソーダで割りますが、独特な味で、マルセイユでは魚介類を入れたスープ、ブイヤベースにもいれるのだそうです。
インドのデリーで飛び切りおいしいインド料理をご馳走になった時のことです。店をでる時、カウンターでサリー姿の知人が銀器のなかの種のようなものをひょいとつまみ「これを口に含むとすっとして口臭防止にもなる」と勧めてくれたのは、フェンネルシード。つまりヒンズ―語でソーンフと呼ばれるういきょうの種でした。その直前に飲んだスパイスとミルクが入っているマサラティーにもカルダモンとともに使用することもあるという説明でした。
花を楽しむほかに様々な用途があり、世界各地で重宝され、しかしどこか不思議さが漂うういきょうなのです。(光加)