白樺
樹肌が白い樺の木、白樺はしらかんばともいい、時に20メートル以上の高さにもなります。
緑の中にこの白い木肌があちこちで見え隠れして、爽やかでなんとも解き放された思いを味わった高原での夏休みがよみがえってきます。
幹や枝は若木の時は濃い茶色で成長するにつれ白くなり、樹皮は紙のようにすぐ剥がれます。春の季語である白樺の花はあまり目立たず、若葉の間に雄花は垂れ下がり雌花は枝の上に上向きます。葉は先のとがった長い卵形で縁には鋸歯のような切れ込みがあります。
真冬のヘルシンキに降り立った時、前日降った雪の眩しい反射の中、葉をすっかり落した白樺があちこちで真っ青な空を指して立っていました。その姿は高原の白樺より太く逞しく見えました。秋には黄色く紅葉します。
「白樺はどこにでもあるのでよく使うわ」と門下のリーサは言います。フィンランドから数えきれないほど来日し、日本語も話し、書も嗜む彼女が展覧会に白樺を使いたいといってきたことがあります。彼女が送ってくれた写真は、白樺の表面の皮を剥がし、内側を表にして丸めたものでした。皮を剥がすのには力がいりパイロットを引退したご主人の助けを借りたそうです。薄茶色のところに断続的に入っている横線、薄い皮の幾重にも重なったところは柔らかな光沢もあり、外側の白くてごつごつとした木肌との対比が面白いのです。
フィンランドの人たちは多くの家庭がサマーハウスを持ち、数えきれないほどある湖のほとりや森の中に、時には自分たちで素朴な家を建て夏休みや週末はのんびりとそこで過ごします。
リーサの片腕で私も子供のころから知っているヘレナは「うちのサマーコッテージも周りは白樺だらけよ。夏に行くと秋から暖炉で燃やす薪を割っておくの。」短い夏から急に寒くなるこの国では、小柄で優雅な彼女の母上はもちろん、家族全員で準備をするのでしょう。
フィンランドの人々に密着している白樺は、彼らが健康的な生活を送るための様々な用途に使われます。サウナの中では立ち登る香りを楽しみながら葉つきの小枝で体をたたいたり、枝でバスケットを作ったり、また、虫歯を防ぐというのでガムなどに使われるキシリトールの原料の一つでもあります。そんな白樺なので1988年、投票によりフィンランドの国樹に認定されたと聞けば、心から納得するのです。(光加)