今月の季語〈十一月〉 「冬」のつく花
木枯(こがらし)は文字通り木を枯らす風。凩とも書きます。そんな風の季節となりました。
地上の彩りは概ね〈木の葉〉とともに吹き払われていきます。が、そうした中にも咲き留まっている花、あらたに咲き出す花があります。今月は「冬」という文字のつく花を中心にみていきましょう。
まず冬の薔薇。俳句で〈冬薔薇〉というとき、温室で立派に咲いた薔薇ではなく〈冬枯〉の中にぽつりと咲き出した花を指します。枝葉がさびしいので枝先に小さな花だけが浮かんでいるようにも見えます。また、せっかく莟を立てても、寒さのために咲かずに終わることもあります。
冬ばらの蕾の日数重ねをり 星野立子
冬の薔薇すさまじきまで向うむき 加藤楸邨
ちなみに本来の薔薇は夏の花です。一方、冬に咲く品種ゆえ「冬○○」と呼ばれるものもあります。
たとえば〈冬桜〉。十一月から一月のころ花期を迎える桜です。花は小ぶりで、白の一重咲きです。
はなびらの小皺尊し冬ざくら 三橋敏雄
冬桜は、春に爛漫と咲き誇る桜とは別ものです。桜はこの時期には枯木となっています。あたたかな日には〈返り花〉と呼ばれる季節はずれの狂い花をつけることがありますが、花時は次の春を待たなければなりません。ただ、裸木となってもそれと分かる木の姿を愛で、〈冬木の桜〉と呼ぶことがあります。
真青な葉も二三枚返り花 高野素十
世は夢の冬木の桜しだれけり 向田貴子
「冬」が文字の中にある柊の花期はその名のとおり冬です。ぎざぎざの葉のほうが印象に残る植物ですが、木犀に似た芳香を放つ小さな白い花を咲かせます。〈柊の花〉もしくは咲いていることがわかるように詠んで季語となります。
柊のたそがれの香にほかならず 岩井英雅
ひひらぎの花まつすぐにこぼれけり 髙田正子
今年はすでに仲秋のころから咲き出して驚きましたが〈山茶花〉は冬の花です。〈茶の花〉〈石蕗の花〉〈水仙〉など冬を選んで咲く花は派手でこそありませんが、佇まいが凜としているように思います。
春にさきがけて咲く花や、花期を調節して冬に咲かせる花に「冬」の文字を冠することもあります。
〈牡丹〉は本来初夏の花ですが、芽を摘み取って花期を遅らせ、真冬に咲かせるのが〈冬牡丹〉〈寒牡丹〉です。藁で苞を作って被せ、根元には敷き藁を施して寒さから守ります。
ひうひうと風は空ゆく冬ぼたん 鬼貫
よろこびはかなしみに似し冬牡丹 山口青邨
しんかんとあめつちはあり寒牡丹 安住 敦
〈冬菫〉は、品種にかかわらず、春にさきがけて咲き出した菫のことです。日当たりがよく、風の通りにくい場所に見かけることがあります。
山一つあたためてゐる冬すみれ 神蔵 器
同じ「冬○○」の呼び名を持っていても、花によってそれぞれ事情が異なります。どの花にも言えることは、冬の厳しさに耐えるけなげさ、かもしれません。(正子)