今月の季語(一月) 七草
東京墨田区の向島百花園では、七草籠作りが歳末の風物詩となっています。宮中に献上する籠も作られているとのこと。同じものが園内に飾られていますが、白砂を溢れるほど敷いた立派な仕立てです。来園者向けの七草籠講座も開かれていて、何気なく訪れてちょうどその集まりに紛れ込むことができた年もあります。
注連飾と同じ理屈で、七草籠作りは歳末の季語ですが、七草籠そのものは新年の季語となります。
「七草」は「七種(ななくさ)」と書くこともあります。五節句の一つ「七種の節句」を略したものととらえれば行事の季語、正月七日に食べる粥ととらえれば生活の季語、その粥に入れる七種類の「若菜」ととらえれば植物の季語となります。
七種の過ぎたる加賀に遊びけり 深見けん二
濤音の七草粥を吹きにけり 飯島晴子
七種の余りは鳥に返しけり いのうえかつこ
若菜摘海の方へも行きにけり 藤田あけ烏
百人一首にも選ばれている、
君がため春の野に出でて若菜つむわが衣手に雪は降りつつ 光孝天皇「古今集」
のように、本来、若菜は野に出て摘むものでした。今では八百屋やスーパーの店頭に七種がセットされたパックが山積みになりますし、乾燥七草や、レトルト仕様の七草粥もあって、かなりお手軽になりました。が、こうした需要があるというところに、面倒でも切り捨ててしまうことができず、簡略な形にしてでも続けようという日本人魂を感じますが、いかがでしょうか。
さて、その七種類の若菜は、地域や家庭によっても異なるでしょうが、オーソドックスなラインナップは、芹、、薺(なずな)、御形(ごぎょう、おぎょう)、繁縷(はこべら)、仏の座、菘(すずな)、蘿蔔(すずしろ)です。菘、蘿蔔以外は、普段は〈春〉の季語、七草粥に入れるときは〈新年〉の季語となります。菘と蘿蔔は、蕪、大根と呼ぶときは〈冬〉の季語です。
芹:春の七草としての呼び名に、根白草(ねじろぐさ)もあります。
水うまき国の夕べの根白草 伊藤通明
薺:〈七種打つ〉とは粥に入れるために若菜を刻むことですが、同じ意味で〈薺打つ〉〈薺はやす〉といいます。また七種粥のことを薺粥とも呼びます。薺は七種の代表なのかもしれません。
千枚田より摘みきたる薺なる 斎藤梅子
はづかしき朝寝の薺はやしけり 高橋淡路女
よくみれば薺花さく垣ねかな 芭蕉〈春〉
御形:母子草のこと。
御形摘む大和島根を膝に敷き 八田木枯
老いて尚なつかしき名の母子草 高浜虚子〈春〉
繁縷:はこべのこと。
はこべらや焦土の色の雀ども 石田波郷〈春〉
仏の座:コオニタビラコのこと。
日のひかりひとときとどき仏の座 山口 速
菘:蕪のこと。
早池峰の日のゆきわたる菘かな 菅原多つを
大鍋に煮くづれ甘きかぶらかな 河東碧梧桐〈冬〉
蘿蔔:大根のこと。
すずしろと書けば七草らしきかな 井沢 修
流れ行く大根の葉の早さかな 高浜虚子〈冬〉
七草粥は万病を除くそうです。自ら七種摘み揃えれば、効果絶大かもしれません。(髙田正子)