今月の季語(6月) 夏の嫌われ動物②
先月にひき続き、今月も嫌われ(つつも好かれている)ものたちを見ていきましょう。
一般に両生類、爬虫類は好き嫌いの幅が大きいようです。私は冬眠明けのまだうっとりした眼の蛇と、心ならずも見つめ合ってしまって以来、爬虫類が好きになりました。ただ蛇も夏になるにつれ、オーラが強烈になっていきます。夏の季語である〈蛇〉とは一定以上の距離を保てるようにせざるを得ません。その点〈蜥蜴〉〈蠑螈/井守〉〈守宮〉は造形的にも文句なくかわいいと思いますが、皆さまはいかがですか?
全長のさだまりて蛇すすむなり 山口誓子
蜥蜴と吾どきどきしたる野原かな 大木あまり
見つめているうちに、作者自らが蛇や蜥蜴と化してしまったのでは、と思える句です。
恋薬とぞ這ふ蠑螈踏みて啼かす 加藤知世子
子守宮の駆け止りたるキの字かな 野見山朱鳥
蠑螈が両生類、守宮が爬虫類です。蠑螈の黒焼は時代劇や落語でおなじみですが、恋薬としての実効性はどうなのでしょう。
亀と蛙も身近な存在ですが、亀は季語ではありませんし、〈蛙〉は春の季語です。〈亀の子〉ならば夏の季語、〈雨蛙〉〈青蛙〉、また〈蟇/蟾蜍〉〈牛蛙〉は夏の季語として使えます。
亀の子の歩むを待つてひきもどし 中村汀女
青蛙おのれもペンキぬりたてか 芥川龍之介
雨蛙退屈で死ぬことはない 金子兜太
蟇誰かものいへ声かぎり 加藤楸邨
飛驒の夜を大きくしたる牛蛙 森 澄雄
多くの人は水族館くらいでしかお目にかからない〈山椒魚〉も夏の季語です。オオサンショウウオは半分に裂いても死なない(と言われている)ので〈半裂(はんざき)〉と呼ばれます。一方を食べて残りを流れに戻しておくと元通りになるそうな。本当でしょうか。
おい元気かと半裂を覗きけり 茨木和生
これらの季語は、ひらがなで書くことももちろんありますが、漢字で書くことが多いです。これも俳句を始めたご縁と思い定めて、せめて読めるようにしておきましょう(書くときはその都度辞書をひけばよいのです)。
両生類でも爬虫類でもありませんが、今からよく出くわすことになる〈蝸牛〉と〈蛞蝓〉。漢字で書くと、蝸牛は殻の渦がぐるぐると見えてきますし、蛞蝓は今にもうずうずと動きだしそうに思えませんか? 見た目の面白さや美しさを求めて、表記はその都度選択するのです。
殻の渦しだいにはやき蝸牛 山口誓子
かたつむりつるめば肉の食ひ入るや 永田耕衣
蛞蝓といふ字どこやら動き出す 後藤比奈夫
来しかたを斯くもてらくなめくぢら 阿波野青畝
蝸牛も蛞蝓も野菜作りの敵ですが、やはり嫌い嫌いも好きの内の動物である気がします。蛞蝓はイヤ? そうですか。(正子)