今月の季語(7月) 祭
大学生に〈祭〉の題を出すと夜店、花火、浴衣、金魚すくい、君、横顔、……と夏の夜の恋模様が展開します。中には「今年こそ」というものもあり、思いのほか古典的と申しましょうか、このジャンルには時代による違いをそれほど感じません。
大学生が想定したのはいわゆる〈夏祭〉の景です。その感覚は正しく、季語の〈祭〉は夏の祭をさします。古くは〈葵祭(賀茂祭)〉を意味したようですが、今は葵祭以外の夏の祭も〈祭〉と呼びます。総称として使えるということと、〈祭〉=夏の祭であるということを押さえておきましょう。
草の雨祭の車過ぎてのち 蕪村
大学も葵祭のきのうけふ 田中裕明
春や秋にも祭はありますが、〈春祭〉〈秋祭〉として〈祭=夏祭〉と区別します。
一子挙げ餅のうすべに春祭 文挾夫佐恵〈春〉
山々に深空賜はる秋祭 桂 信子 〈秋〉
〈葵祭〉に限らず固有名詞を季語に使える祭はたくさんあります。東京の人には五月の〈神田祭〉や〈三社祭〉こそが祭かもしれませんし、七月の〈天神祭/天満祭〉は大阪の、〈山笠〉は博多の大祭です。また七月一日からまるまるひと月続く京都の〈祇園祭〉も観光客がごったがえすイベントになっています。
ちちははも神田の生れ神輿舁く 深見けん二
喪にこもり三社祭もすぎにけり 安住敦
早鉦の執念き天満祭かな 西村和子
山笠の助走も見せず発進す 池田守一
東山回して鉾を回しけり 後藤比奈夫
祭の名前のみならず、ゆかりのもろもろが季語として使えます。
右の「ちちははの」の句は〈神輿〉が、「東山」の句は〈鉾〉が季語です。神田+神輿=神田祭、東山+鉾=祇園祭となっています。
祭のメインイベントは〈神輿、山車、山鉾〉などの巡行でしょう。が、ほかにもさまざまな季語があります。例えば、〈宵宮、宵祭、本祭、祭後〉などの日程と絡んだ季語。
潮騒と宵宮と遠きこといづれ 永井龍男
くらがりに柱を燃やす祭あと 対馬康子
〈祭笛、祭太鼓、祭鉦、祭囃子〉など音曲系の季語。
祭笛吹くとき男佳かりける 橋本多佳子
ゆくもまたかへるも祇園囃子の中 橋本多佳子
〈祭髪、祭足袋、祭稚児〉など装いに関する季語。
男らの汚れるまへの祭足袋 飯島晴子
路地に生れ路地に育ちし祭髪 菖蒲あや
左右より化粧直され祭稚児 森田 峠
また、祭にちなむ特徴的な食べ物や植物で詠むこともできます。
青竹の林を抜けて祭鱧 大木あまり
射干の花大阪は祭月 後藤夜半
名のある祭に駆けつけるもよし、近隣の祭に繰り出すもよし、祭は夏の体験型季語の代表と言えるでしょう。(正子)