今月の花(9月)おやまぼくち
デモンストレーションの花材として持ってこられたなかに、見慣れぬ名前がありました。珍しいからと花屋さんが追加して入れてくれたものでした。
それは切り取られているからか、長さはせいぜい40cmくらい。一本の茎からまた何本か茎がでていて、その色は白色がかった緑で、触ると毛足のごく短いベルベットのようでした。やわらかい布のような感触の葉の表は明るい緑ですが、裏は茎とおなじような白が勝っている薄い緑色でした。3-4cmほどのころころとした花はと、よく見ようとすると、何かチクチクと手にさわります。それはたくさんある花弁の先が尖っていたからでした。
大量に栽培された花にはない「おやまぼくち」の野趣のあるこの表情には心惹かれます。
「雄山火口」と書いて「おやまぼくち」と読みます。「やまぼくち」という近縁の植物があり、それに比べると雄々しいのでこの名がついたということですが、名に反して勇ましい威張った姿ではなく花の頭はつつましく下を向いて咲いているのです。
「おやまぼくち」は「のあざみ」の一種で、キク科と聞けばなるほど花弁の密集した集まり方は菊と共通のものでした。蕎麦の産地の長野県では、この「おやまぼくち」の葉の繊維をつなぎに入れて使うところもあるそうです。その葉の色から「うらじろ」、また「やまごぼう」と呼ぶ地方もあると聞き、きれいな空気をたくさん吸い込んだ山のふもとの植物にますます魅せられました。
「あざみ」は春の季語ですが、あざみには種類がたくさんあり春から秋まで咲くいろいろなあざみがあるそうで、「おやまぼくち」の花は夏から秋にかけて咲きます。
ちなみに「ぼくち〈火口〉」は火打石から初めに燃え移らせるものを意味するそうで、「雄山火口」もその下を向いた花の姿からは想像できないくらい、乾いた葉はきっと火をうけてパッと燃え上がるのでしよう。その時こそ、この植物がその名にふさわしいと思えてくるのかもしれません。(光加)