今月の季語〈十月〉 秋の野遊び
〈秋の野遊び〉という季語をご存知ですか? 春の〈野遊び〉に対する季語です。昔の歳時記に「草花見」「萩見」の記載がありますから、もともとは秋の草花を愛でに野へ出ることであったと思われます。実作の際には、このままの形より具体的なモノが見えてくる季語を使った方が、伝わる俳句になるでしょう。
花野から今刈りて来し供華ならむ 飯島晴子
眼に溜めて風の色見ゆこぼれ萩 福永耕二
〈残暑〉に喘いでいては楽しく遊べませんから、秋の遊びはまず夜からではないでしょうか。今年の仲秋の名月は九月十五日、後の月は十月十三日です (暦の関係で毎年ずれますが、今年はまさにうってつけの日付と言えましょう)。各地で〈月見〉の会や〈虫聴き〉の会が開かれるのが常ですが、イベントに参加しなくても、月を仰ぎ、虫の声に耳を傾けることはできます。夜の野遊びは、秋ならではかと思います。
岩鼻やここにもひとり月の客 去来
しづかなる自在の揺れや十三夜 松本たかし
花鳥風月虫を加へて夢うつつ 手塚美佐
そして秋にはなんといっても、収穫の楽しみがあります。〈桃〉〈葡萄〉〈梨〉〈林檎〉等の〈秋果〉を自ら捥いで味わったり、〈茸狩〉や〈栗〉拾いのために山へ入ったりします。
茸狩りポシェットがけに竹の籠 上田日差子
佳き言葉授かる葡萄棚の下 向田貴子
栗打つや近隣の空歪みたり 飯田龍太
〈芋煮会〉というのは山形の秋の野外行事ですが、各地にこれに類する収穫を祝う行事があるのではないでしょうか。
月山の見ゆと芋煮てあそびけり 水原秋櫻子
初めより傾く鍋や芋煮会 森田 峠
また旧暦九月九日の〈重陽〉に節句行事を執り行うのは、現代の庶民にはあまり縁の無い話ですが、小高い丘や山に登って〈菊の酒〉や〈茱萸の酒〉を飲む風習を指す〈登高〉〈高きに登る〉は、今では本意から逸れ、高い所に登って楽しむ意に使われるようにもなっています。
灘見ゆと聞けば逸りて登高す 皆吉爽雨
酒持たず高きに登る高きは佳し 藤田湘子
そうは言っても前句の「灘」は灘の生一本の灘ですし、後句も持っていない「酒」を意識する作りとなっています。節句行事のために登るのではないとしても、本意を意識しながら作り、かつ読み取る方が面白いでしょう。
そして古来よりの秋の一大イベント〈紅葉狩〉も控えています。温暖化の昨今、十月にはまだ〈紅葉〉〈黄葉〉しきっていない所のほうが多いですが、春の桜前線とは逆に、北の方から順々に紅葉の知らせが届き始めます。
いつぽんは鬼より紅し紅葉狩 鍵和田秞子
紅葉狩しつつ命の砂時計 品川鈴子
今年の日本は〈台風〉の通り道になってしまったかのようで、不本意なことも多いですが、秋を楽しみ「命の砂時計」を大切に使おうではありませんか。 (正子)