今月の季語(十二月) 冬の衣(2)
先月のクイズの答えは「綿(わた)」でした。毛は違うのか、革は候補にならないのか、などなど楽しい意見交換ができました。今月はそれらをまとめて続編としてお届けします。
「綿(わた)」はこのままで冬の季語として使えます。「毛」と「革」は語を足して冬の季語になります。どんな語を足せばよいでしょう。
毛をウールととらえれば、それを紡いで糸にした〈毛糸〉、着用できる形に作り上げる行為である〈毛糸編む〉、その結果できあがった〈セーター〉〈マフラー〉〈冬帽子〉〈手袋〉など、実に多くの冬の季語につながります。
毛糸屋にわが好む色ひとも買ひぬ 及川 貞
ひとときは掌の中にある毛糸玉 黛まどか
寄せ集めだんだら縞の毛糸編む 野見山ひふみ
女性ばかりでなく男性も毛糸を詠んでいます。例えば、
毛糸玉幸さながらに巻きふとり 能村登四郎
毛糸編はじまり妻の黙はじまる 加藤楸邨
プレゼント大きく軽し毛糸ならむ 松本たかし
ここに挙げた男性俳人はどうやら「編み物王子」ではなさそうです。男性自らが編む主体となって詠むと、どんな句ができるのでしょうか。今後に期待したいところです。
セーターの鎖の模様胸を逸れ 宇多喜代子
逢ひに行く緋のマフラーを背に刎ねて 辻田克巳
冬帽のやはらかなるを鷲摑み 鷹羽狩行
ふかふかの手袋が持つ通信簿 井上康明
〈黒手套嵌めたるあとを一握り 岡本 眸〉の黒手套はおそらく布製でしょう。衣類や小物類は毛糸で編み上げたものとは限りませんが、近い雰囲気を持つ句を選んでみました。素材感まで詠み込めることを味わってみましょう。
「革」も同様に〈革手袋〉〈革ジャンパー〉〈革コート〉〈革足袋〉など、防寒のための素材として使われると冬の季語になります。また毛がついたまま鞣した〈毛皮〉も冬の季語です。
洞窟に似し一流の毛皮店 大牧 広
人形の手に正札や銀狐 星野立子
〈毛布〉も羊毛などで織った防寒用の寝具や膝掛けを指す冬の季語です。毛より〈布団・蒲団〉の仲間として認識していそうですが。
毛布にてわが子二頭を捕鯨せり 辻田克巳
ダリ展の隅の監視の膝毛布 冨田正吉
余談ですが、人の毛髪にも冬の季語があります。髪は四季を問わず生え変わりますが、この時期の抜け毛を木の葉が散るのになぞらえて〈木の葉髪〉と呼ぶのです。
音たてて落つ白銀の木の葉髪 山口誓子
指に纏きいづれも黒き木の葉髪 橋本多佳子
先月のクイズはまだまだ発展形が考えられます。他の季節の歳時記もひっくり返して、探してみてください。(正子)