今月の季語(6月) 茂(しげり)
〈若葉〉より〈青葉〉、〈新緑〉より〈万緑〉と呼ぶに適う季節となりました。日に日に〈緑〉がむくむくと膨れ、濃く、深くなっていくのを見ていると、何かぞくぞくしてきます。
不二ひとつうづみ残してわかばかな 蕪村
起立礼着席青葉風過ぎた 神野紗希
摩天楼より新緑がパセリほど 鷹羽狩行
万緑の中や吾子の歯生え初むる 中村草田男
「若」「青」「新」「万」と、これらはどれも緑を讃える、積極的肯定的といえる季語です。同じように鬱蒼たる植物の生命力を表しながら、肯定も否定もせず、そのまま受けとめる感覚の季語もあります。
例えば〈茂(しげり)〉。木々の生長が著しいさまを指します。葉と葉が結ぼれて、闇を擁するようにもなります。
だんだんに一目散に茂りけり 綾部仁喜
木下闇木下明りも熊野道 後藤比奈夫
そういう状態になってくると、条件が悪くなって病む葉も出て来ます。
櫨の木の火の病葉(わくらば)を舟の上 石田勝彦
もっとも、冬でなくても木々は葉を落とします。私たちの髪が抜けるのと同じく新陳代謝の一環です。夏季の落葉はそのまま〈夏落葉〉と呼びます。
弾み落つ月の出頃の夏落葉 斎藤夏風
草もまた樹木同様猛々しいほどに生長します。草には〈草茂る〉を使います。
人通る幅を残して草茂り 木村定生
夏に茂る草の総称として〈夏草〉、蔓が絡みながら繁茂する草を〈葎〉と使い分けることもできます。また、茂った草がむんむんと匂いを放つ状態を指す〈草いきれ〉も季語として使えます。
夏草や兵どもが夢の跡 芭蕉
絶海の蒼さ葎ののぼりつめ 野澤節子
草いきれ貨車の落書き走り出す 原子公平
〈草の花〉が秋の季語であるように、野が繚乱の花盛りを迎えるのはまだ先ですが、夏の光の中に花を掲げている草も多いです。丈の高い草では〈虎杖(いたどり)の花〉〈羊蹄(ぎしぎし)の花〉〈竹煮草(たけにぐさ)〉等々。
虎杖の花に熔岩(らば)の日濃かりけり 勝又一透
雨呼んで羊蹄の花了りけり 星野麥丘人
竹煮草たたきて山雨はじまりぬ 鷲谷七菜子
蔓になって四方八方へ広がりつつ花をつけているものも。
蛇籠より蛇籠へ渡り灸花(やいとばな) 高野素十
昼顔に電流かよひゐはせぬか 三橋鷹女
また足もとにはこんな花盛りも。是非屈んで見つめてください。
かたばみや何処にでも咲きすぐ似合ひ 星野立子
しじみ蝶とまりてげんのしようこかな 森 澄雄
そろひたる立浪草の波がしら 片山由美子
捩花はねぢれて咲いて素直なり 青柳志解樹
どくだみのいま花どきの位もつ 山上樹実雄
(正子)