今月の花(八月)グラジオラス
苦手な花はありますか、と問われることがあります。茎はまっすぐで曲げられず、花が付くと重さがあり、花弁は傷つきやすいグラジオラスは苦手な花のひとつです。
そうはいってもいられないのが、海外でのいけばなのデモンストレーション。花材は季節の関係などにより限られることが多く、国によっては輸入の薔薇やカーネーションなど数種類があるくらいです。
ある時イタリアの小さな町でデモンストレーションをすることになりました。デモンストレーションとは何もないところからお客様の前で花をいけて、出来上がっていく過程を楽しんでいただくことです。少なくても五作品、多い時は十作品以上いけます。
デモンストレーションでは観客の目を変えていくことが必要で、使う植物の種類は豊富でなければなりません。私は花屋さんで、萌えるようなオレンジの花をたくさんにつけた背の高い、いかにも夏でも元気なグラジオラスを買いました。
デモの数作のうち、一作は五本の同じ色のグラジオラスだけを幅の狭い長水盤にいけることにしました。グラジオラスは葉の長さが五十cmにもなることがあります。きれいな葉を選んで茎から注意深く切りとり、花茎の先にある咲ききっていない数輪を残してパシと切ると観客の低いウオという声が聞こえました。
二本になったグラジオラスの花茎の、豪華に咲いているほうを先に入れた葉の間から顔を出させ、先の蕾の部分を葉と共に剣山に。背の高い緑の葉は花の後ろにすこし間隔をおいて垂直に入れ、勢いのある葉の線を出しました。
「私たちはそのまま12本、さっと花瓶に入れるだけなのにね」「ふたつに切った時はどうするのかと驚いた」終わって挨拶をすると、グラジオラスが印象的だったという声に囲まれました。
そのなかのある男性が言いました。「日本からのクリスマスカードで見た記憶がある!この形は。花は違うけれど」よく聞いていくうち彼の言っているのは尾形光琳の燕子花の図と分かりました。すっと立って咲く燕子花の群を金泥の空間に配することで光琳は空間も描きたかったのでしょう。背景の金の空間がこの花を浮きたたせ、まるで別の世界にもっていったかのようです。
私はグラジオラスの作る空間の美しさを生かしきれたでしょうか。意識もしていなかった日本の空間の大切さは私の中で一度潜り、グラジオラスの作品として浮上したのでしょうか。
グラジオラスはラテン語で小さな刀の意味をもち、燕子花や花菖蒲と同じあやめ科に属します。今はいろいろな色や形のあるグラジオラス、嫌わずにもっといけようと思いました。(光加)