今月の季語(十月) 今日の月、後の月
さて、どうにか〈秋風〉の音を聴きとめ、たまさかの〈秋晴〉の空には〈秋の雲〉を認められるようになって来ました。ただ、相変わらず〈秋の雨〉に親しんでいる気分ですし、今年の〈野分〉〈台風〉は、不可思議な軌跡を描いて襲来するので、そろそろ〈月〉の動向が気にかかるようになって参りました。
気温も湿度も下がって秋は月が澄んで見える、ゆえに月は秋の季語、ということを、今年は理屈ではなく、身体で味わっています。
風立ちて月光の坂ひらひらす 大野林火
能面のくだけて月の港かな 黒田杏子
今年の〈十五夜〉は十月四日。仲秋の名月はこの日の月を指します。〈名月〉〈明月〉〈今日の月〉も同義です。
名月をとつてくれろと泣く子かな 一茶
三井寺の門たゝかばやけふの月 芭蕉
月を待つ情は人を待つ情 山口青邨
月の出も待たれますが、名月のその日も待たれるものです。〈初月(はつづき)〉〈二日月〉〈三日月〉…〈弓張月(ゆみはりづき)/半月〉…〈小望月/待宵の月〉と数え上げていきます。
吾妻かの三日月ほどの吾子胎(やど)すか 中村草田男
この心は〈花を待つ〉ときの心持ちにも通うのではないでしょうか。また年末の、正月へのカウントダウンを表す〈数へ日〉、明けて一日一日を慈しむかのような〈元日〉〈二日〉〈三日〉…〈七日〉も同様に。
待たれるのは〈月の宴〉でもあるでしょう。〈月祀る〉〈月見〉〈月見酒〉〈月見団子〉等。これらは歳時記の「生活」の部に収められています。
仲よしの女二人の月見かな 波多野爽波
つい過ごす酒と言ひつつ月の客 鷹羽狩行
やはらかく重ねて月見団子かな 山崎ひさを
そのようにして待ちに待った十五夜ゆえ、雲が厚かったり、雨であったりすると落胆します。その心が〈雨月〉〈無月〉の季語に籠められています。
無月の窓しばしば開く山泊り 松崎鉄之介
月の雨こらへ切れずに大降りに 高浜虚子
〈十五夜〉が過ぎてもそれで終わりにはなりません。〈十六夜(いざよい)〉〈立待(たちまち)/十七夜〉〈居待/十八夜〉〈寝待/臥待/十九夜〉〈更待/二十夜〉…恋々と月を思い続ける季語があります。
そして次の月が育ち始め、十三夜の月を〈後の月〉と言います。今年は十一月一日です。
かな女亡きあとの十五夜十三夜 落合水尾
わが机貸す後の月祀るにも 安住敦
仲秋の名月には芋を供えるので〈芋名月〉、後の月には豆や栗を供えるので〈豆名月〉〈栗名月〉の名もあります。月に関わる季語はまだまだあります。歳時記を繰って調べてみましょう。
ちなみに今年の名月(十月四日の月)は13.9齢、〈満月〉になるのは十月六日です。月の暦と月齢は別物ということも、頭のどこかに納めておいてください。(正子)