今月の花(十月)きささげ
有名な芭蕉の一句です。烏は一羽か、それとも複数か、といった考察がされることはよくありますが、さて、止まっている枯れ枝は何の植物でしょうか?
実が落ちた柿の枝か、それとも梅の古木で苔などがついているか?と想像は広がっていきます。一口に枯れ枝といっても 葉をすっかり落とし春にそなえて力をためているもの、また一方では枝の芯まで乾ききり、全く新芽が吹く可能性がなく、朽ち果てるのを待っているものもあります。
芭蕉の句の枯れ枝は何かと考える時、私にはまず、かたまってたくさんの実がつく「きささげ」の枝が心の中に浮かびます。「ささげ」はマメ科ですが、「きささげ」はノウゼンカズラ科で薄黄色の花をつけます。
「きささげ」は夏の間、3~5か所の切れ目がある卵型の大きな葉の間からたくさんの緑の実が下がります。細長い豆のは30cmにもなります。
秋に葉をおとすとぶっきらぼうに伸びている枝が現れ、たくさんの褐色の豆が垂れ下がる姿はにわかに野趣に富んで見えてきます。
ある展覧会に家元みずから制作の陶器の器にいけさせていただくことになった時、花材は「きささげ」がいいと思いました。しもぶくれの40cmくらいの高さの花器は少し紫がかった釉薬がかけられ、口元には白い釉薬がはねたようにかけられていて、まるで冬の富士山のようでした。
九月のはじめ、花屋さんにいくと六畳ほどの冷蔵庫に保管された花材のなかに「きささげ」がありました。十月末の展覧会に予約しようとすると、無理だという答えが返ってきました。
その時期はたとえ一週間前に切って冷蔵庫にいれて保管しても 外に出すとすぐ豆がはじけてしまうのだそうです。そうするとたくさんの種に細かい毛のようなものが出てきて、なかなか掃除が大変というので、私は「きささげ」を十月末の展覧会にいけるのをあきらめることにしました。枯れ枝どころか、なんと生命力にあふれた植物なのでしょう。
こうして芭蕉の「枯れ枝」のいくつかの候補の中から「きささげ」は消え、この枯れ枝が何の植物をさすのか、という推理は振り出しに戻ったのです。(光加)