今月の花(十一月) 松茸
茸の季節にヨーロッパへ行くと街の市場で大小様々な形の茸が山になって売られている光景を目にします。乾燥したものもよく売られています。私の秋のイタリア旅行の楽しみのひとつは、擦ったパルメザンチーズをたっぷりかけたリゾットにはいっているフンギポルチーニです。
しかし季節の茸の王様といえばやはりトリュフではないでしょうか。トリュフは生産可能になったとはいえ大量栽培には程遠く、犬や豚の優れた嗅覚が頼りです。訓練された犬と野山をさがす映像もこの時期よく紹介されます。
これに匹敵する日本の秋の茸といえば、松茸でしょう。松茸もまた栽培が難しく、女松と呼ばれる赤松の周りの土地にわずかに頭を出しているところを採集します。ひとつ見つけるとその周りにも見つかることが多いといわれます。松茸狩りという言葉があるものの、国内ではだんだんとれなくなりカナダや近隣諸国から輸入されているものが増えてきましたが、香りも味わいも今ひとつという評価は日本人が松茸に特別な思いを持っているからでしょう。万葉集の時代から歌に詠まれているそうですが、どんな歌でしょうか。
フィンランドのいけばな関係の方たちと、ヘルシンキの日本大使公邸に招かれた時のことです。こちらでも和食が広まり、いけばなを通して日本に特別関係の深い方たちが集うその日のおもてなしも和食でした。
食卓に出されたのは松茸のお吸い物、土瓶蒸し。傘の開かない新鮮なうちが松茸の身上ですが、どうやって日本から運んできたのかしら、冷凍かしらと思っていると、大使がフィンランドで松茸が採れるというお話をされました。松茸がはえる赤松の林はこちらにもあります。でも、地表に少ししか顔を出さない松茸はあまり知られていません。
同席した方によれば 北欧の松茸と日本の松茸はDNAにおいても極めて近いという研究報告があるのだそうです。フィンランドにはたくさんの種類の茸が生えているので 特別松茸に興味のある人はいないし、注意したことも探したこともないというフィンランドの友人の話でした。
私たちのいけばなの教科書の中に野菜、果物をいける、というテーマがあります。「今度松茸を探していけてみようかしら。日本の人たちはきっとうらやましがるわね」という門下のフィンランド支部のメンバーに大笑い。
おもてなしのしめは土鍋でたかれた松茸ご飯。おかわりをどうぞ、とすすめてくださる大使夫人の言葉に、フィンランド松茸の味をしっかり覚えておこうと二膳目をお願いしたのでした。(光加)