今月の花(十二月)落葉
ホテルの花屋さんでスタッフのための朝のお稽古を週二回、二十年以上も続けています。仕事前の稽古なので、朝八時半の始まりです。駅から土手のそばの数百メートルの道をホテルに向かって歩いていくと、四季を感じ、土手に生えている様々な植物の観察にもなり朝が早いのも苦にはなりません。
初秋には落ちはじめた色鮮やかな柿の葉を拾い上げ、冬に近づくにつれ、赤や黄色の様々な落葉はどの木からかと上をみあげながら歩道を歩くのが楽しみです。
この花屋さんのスタッフのひとり、稽古熱心のNさんに、十一月に行われる流派の展覧会に出品してみないかと誘ったのはもうずいぶん前になります。ある年、彼女は落葉を使って作品を制作したい、と言いました。デパートでの花の展覧会場は乾燥がひどく、場所によってはエアコンの風が当たります。いけるとすぐに水分を失って萎れてしまい、見事な紅葉も次の日にはいけ替えということもよくあります。紅葉を楽しむのはやはり自然の中でないとと思ったものです。果たして落葉はそんな環境の中で大丈夫なのでしょうか。
展覧会のいけこみの当日、彼女は黒く焼いた網を数枚と落葉をたくさん入れたビニール袋を持ちこみました。葉は乾燥はしていましたが茶色の中に赤や黄色がまだきれいに残っているものが多数ありました。生の花を特殊な加工をして色や形を整える「プリザーブドフラワー」が今は流行りのようですが、手に取ると感触はそれとは違いました。
「公園できれいな桜の落葉を拾ってきて、新聞紙で押しをして毎日必ず新聞を変えました。仕上げは電子レンジで、温度は何度でどのくらいの時間が一番色が残るか、と見極めるのに苦労しました。主人も外に出ると葉を拾ってきてくれるようになりました」。
努力家である彼女の作品は、重ねた網に北風に刺さった様に桜の落葉が何十枚も入れられた、自然がみせる初冬の一瞬がみごとに切り取られたものでした。作品は「新人賞」を受賞しました。
「賞はご主人にも半分贈呈しないとね」。コートの襟を立てて葉を拾っているご主人を想像しながら、私は言いました。
「意外な生け方がある。意外な題材を忘れている(草月五十則)」と述べた初代家元はまた「枯れたものは美しい。萎れたものはちがう」(勅使河原蒼風花伝書)という言葉を残しています。電子レンジを使った落葉の美しさへの評価を聞いてみたかったと思いました。(光加)