今月の季語(一月) 雪
数センチの積雪で機能がストップする関東圏の都市に住んでいますと、〈雪〉という季語にどこか鈍感になってくるのを感じます。が、雪月花というように雪は和歌の伝統をひく大きな季語です。降る雪だけでなく、関連するさまざまな季語が人の暮しに細やかに添っています。歳時記を一覧してみましょう。
まず時候の章から。二十四節気に〈小雪〉〈大雪〉があります。今年は十一月二十二日と十二月七日でした。関東圏は〈冬青空〉に磨きがかかるころかもしれません。
天文の章には〈雪〉をはじめ、たくさん収められています。
是がまあつひの栖か雪五尺 一茶
地の涯に倖せありと来しが雪 細谷源二
窓の雪女体もて湯をあふれしむ 桂 信子
〈初雪〉〈新雪〉〈吹雪〉〈雪明り〉。〈雪晴〉と晴れを表す季語もあります。
初雪や仏と少し昼の酒 星野 椿
新雪に魚影のごとく映りゆく 今井 聖
たましひの繭となるまで吹雪きけり 斎藤 玄
あしあとの茜濃くなる深雪晴 石川恵美子
雪の文字はありませんが〈風花〉は、冬晴の空から舞い降りる雪片のことです。〈雪しまき〉は風、〈雪起し〉は雷を表します。
風花の大きく白く一つ来る 阿波野青畝
丸太曳く馬子に唄なし雪しまく 小原啄葉
雪起し山河触れ合ふ音すなり 万代紀子
地理の章には〈雪山〉〈雪野〉などがあります。
雪山を匐ひまはりゐる谺かな 飯田蛇笏
没日の後雪原海の色をなす 有働 亨
生活の章にも豊かです。雪対策の〈雪囲〉〈雪垣〉〈雁木〉、樹木に施す〈雪吊〉。〈雪掻〉〈雪下ろし〉は除雪作業です。
浪の花飛んで来る日の雪囲 後藤比奈夫
来る人に灯影ふとある雁木かな 高野素十
雪吊の縄のいつぽん怠けをり 伊藤白潮
雪道へ出るための雪掻きにけり 山本一歩
雪を歩くための〈雪沓〉〈樏(かんじき)〉、雪の上を滑る〈橇〉、昔は〈雪合羽〉〈雪蓑〉と呼ぶものもあったようです。
雪沓穿く広き背にいふ頼みごと 村越化石
ぬつくりと雪舟(そり)に乗りたる憎さかな 荷兮
雪合羽汽車にのる時ひきずれり 細見綾子
花見、月見があるように、もちろん〈雪見〉も楽しみます。
船頭の唄のよろしき雪見かな 斎藤梅子
子どもは〈雪合戦〉をしたり〈雪達磨〉〈雪兎〉を作ったり。また〈スキー〉に雪は欠かせません。
靴紐を結ぶ間も来る雪つぶて 中村汀女
雪だるま星のおしやべりぺちやくちやと 松本たかし
シュプールをいたはるごとし夕映は 香西照雄
油断すると〈雪焼〉や〈雪眼〉に苦しむことになります。
雪焼の首(こうべ)を垂れて黙礼す 福田蓼汀
駅蕎麦の湯気やはらかき雪眼かな 細川加賀
動物や植物のの章にも。
船去って鱈場の雨の粗く降る 寺山修司
雪蛍ふはりと村が透きとほる 黛 執
月光を浴ぶ雪折の白樺 山田弘子
まだまだありそうです。探してみましょう。(正子)