今月の花(一月)寒梅
寒い時期に丸い蕾を付けて一生懸命に咲こうとしている梅の姿。その健気さに思わず応援したくなります。新しい年を新たな気持ちで始めるのにふさわしいと思う花材のひとつです。寒梅の小さな丸い蕾を見つけると、そのかすかな香りを確かめたくて顔を近づけてみます。
萩に続いて登場する万葉集の梅は白梅ばかりです。梅の香りを詠んだ歌は万葉集にはたった一首ということですので この時代にはまだ梅の香りは人々の意識には上らなかったのでしょう。寒梅の歌は何首あるのでしょうか。
梅は五感のなかの視覚(花、枝)、味覚(梅干、梅酒など)、嗅覚(香り)を楽しませてくれる植物です。そのどれをとってもそれぞれに特徴がありますが 私にとって気になるのは目に飛び込んでくる梅のたたずまい、花はもちろんですが、特に葉のない時期の枝ぶりに興味を惹かれます。
国宝に指定されている尾形光琳の紅白梅図屏風は、例年一月の末から三月初めまで熱海美術館で公開されます。熱海の梅林が賑わいを見せる頃です。紅白の梅が咲き誇る画面の中央を流れるデフォルメされた川も目を引きますが、両側からかかる梅の枝や、幹の形、緑の若枝もたいそう面白い。光琳自らが観察した枝の線の走り方、緩急などがこの表現になったのでしょう。
正月花の大作には目出度さを強調するべく紅白の梅がよく選ばれます。いけた作品は花の美しさはさることながら、鋭角に伸びていく枝や曲がった枝、墨と筆で描いたような少し細かい枝の線からは命の躍動が伝わってきます。そんな時、自分で切った紅梅の枝が芯まで薄紅色だったものがあって感激したことも思い出すのです。
こうした梅にはしばしば苔梅が使われます。先日、スイスで行った「祝い花」というテーマのワークショップで「お祝いの時に苔の付いたものをいけていいのでしょうか?」と聞かれました。「もちろんです。苔が付くほど長い時間を生きてきた植物に日本人は時を思い、ひいては悠久や長寿を思うのではないでしょうか。お正月の花材に苔梅、苔松などが選ばれるのはそんな理由もあるでしょう」と私は答えました。「でも近頃では運搬するときに苔が落ちたりするので、あとで糊でこっそり貼ったりしますけれど」と付け加えると笑いがもれました。
この新年にはどんな正月花が街に登場するのか楽しみです。(光加)