今月の花(二月)辛夷と木蓮
春浅いころ銀色の毛を密生した花芽を見つけたら、それは辛夷かもしれません。その形が、にぎった小さな拳に似ているところから名づけられたともいわれています。
枝は真直ぐなものが多く、花は元に一枚小さな葉をつけて開きます。細めの六枚の花弁は薄く傷つきやすいので、私たちは注意していけます。白い花は開ききると中の芯の部分まで見せて、やがて散っていきます。
辛夷に少し遅れて、木蓮が大きな花を開きます。木蓮というと通常は紫木蓮のことをさし、花弁は外が濃紫で中は薄紫です。色の濃いものは、からす木蓮と呼んでいます。
春の灯がともったような白木蓮も街路樹や庭木として目を楽しませます。木蓮の花は上を向いて咲き、辛夷と比べればいずれも花びらが厚く、長さは十cmくらいになります。木の高さは十五mにも伸び、散歩道で白木蓮の小舟のような形の花びらが落ちているのをみつけると、どこから舞い降りたのだろうと思わずあたりを見上げます。
草月の初代家元と二代目家元が厚い信頼を寄せていた秘書の方とお話をする機会があったのはもう何十年も前でしょうか。彼女のいける花は花材の取り合わせに、華麗さと同時に繊細さも備えていて大好きな作家でもありました。
辛夷の花と彼女を囲んで何人かで話をしたことがありました。その折「辛夷の蕾の先は北を向いているのよ」と言われてもすぐには理解できませんでした。
辛夷や木蓮の蕾は、日の当たる暖かい南側に芽の一部が膨らみ、先はその反動からか反対の北をさすというのです。
そういえば目の前の辛夷の芽の先はそろって同じ方向を向いていました。え!本当ですか?知らなかった!と私も声をあげた一人でした。
山の中で道に迷い、コンパスを持っていなければ辛夷や木蓮の花芽を見よ、というのでしょうか。
辛夷と木蓮は[方向指標植物]またはコンパスプラントと呼ばれ、赤目柳などもこの部類に入るのだそうです。
花をいける事の背景には大きな自然のルールがどっしりと存在していることをいまさらながら実感し、辛夷や木蓮の花が花芽をたくさんつけた開花前のまさにその時期を、大自然の中でめぐりあって確かめたいと毎年思っています。(光加)