今月の季語(五月) ほととぎす
雪月花はそれぞれ冬秋春を代表する大きな季語ですが、夏に〈ほととぎす〉を加えて四季を揃えます。夏を代表する季語なら他にもっとと思う人もいそうですが、大きさの理由は和歌の時代から脈々と詠み継がれてきたことにあります。日本に暮らす人々は、あの声を聞いて夏が来たと思ってきたのです。
野を横に馬牽き向けよほととぎす 芭蕉
谺して山ほととぎすほしいまゝ 杉田久女
それだけに異字も多様です。時鳥、子規、不如帰、杜鵑鳥あたりはよく知られていますが、〈郭公一声夏をさだめけり 蓼太〉の郭公はほととぎすのことです。沓手鳥、田長鳥、早苗鳥等々、異名もたくさんあります。
井戸水にくもる庖丁ほととぎす 山下知津子
挙兵あり遁走ありぬ時鳥 大峯あきら
口中が鮮紅色なので「鳴いて血を吐く」といわれますし(正岡子規の俳号の由来です)、異名である「しでの田長」の「しで」は士田(=田子)や四手(四つの爪)の文字が当てられますが、死出に通ずることから冥途の鳥と忌まれることもあるようです。もっとも俳人は忌むより好いていますが。
ほととぎす鳴くやあの世のあかるくて 中山純子
ほととぎす夕冷え胸の奥よりす 馬場移公子
鳴き声の聞きなしも楽しいです。かつての私には「キョッキョ キョキョキョキョキョ」としか聞こえていなかったのですが、ある日確かに「テッペンカケタカ」と聞こえ、驚いて飛び起きたことがあります。
郭公(かっこう)は「カッコー、カッコー」と鳴き、子どもにも好かれている鳥です。ホトトギスより大きいですが、近縁なのでよく似ています。閑古鳥とも呼びます。
憂き我をさびしがらせよ閑古鳥 芭蕉
郭公や何処までゆかば人に逢はむ 臼田亜浪
ほととぎすや郭公の仲間の夏鳥は、ほかに「ポポッ、ポポッ」と鳴く筒鳥(つつどり)、「ジューゥイチ、ジューゥイチ」と鳴く慈悲心鳥(じひしんちょう、十一)が季語になっています。いずれも初夏に南方から飛来し、秋口に去ります。そして托卵の習性があります。
筒鳥の風の遠音となりにけり 三村純也
慈悲心鳥おのが木魂に隠れけり 前田普羅
ほととぎすは夏の渡り鳥ですから、雪月花と異なり、ほかの季節にまたがることはありません。が、ゆかりの季語があります。
まず夏の植物の章に〈杜鵑花(さつき)〉があります。躑躅〈春〉に遅れて咲き出す皐月躑躅(さつきつつじ)のことです。皐月に咲くから「皐月躑躅」、ほととぎすが鳴くころ咲くから「杜鵑花」というネーミングです。
満開のさつき水面に照るごとし 杉田久女
さつき先づ濡れそぼち芝濡れにけり 桂 信子
やはり植物ですが、秋の章に〈杜鵑草(ほととぎす)〉があります。紫の花びらにある斑点がほととぎすの腹の模様と似ていることによる命名です。
殉教の土の暗さに時鳥草 後藤比奈夫〈秋〉
墓の辺や風あれば揺れ杜鵑草 河野友人〈秋〉
冥いイメージも似ているのかもしれません。杜鵑鳥、杜鵑花、杜鵑草と音には反映されない漢字(鳥、花、草)をつけて使い分けます。この区別の仕方は俳句でよく使います。意識しておきましょう。(正子)