今月の季語(7月) 瓜
水中に水より冷えし瓜つかむ 上田五千石
をめぐり、私の身辺では思いのほか話が弾んでいます。
井戸端で西瓜を冷やす景にすら馴染みの薄い私は、瓜といえば昔は甜瓜(まくわうり)を指した、という断片的な情報しか持ち合わせていませんが、白かった、いや黄色だった、フルーツとして食べた、漬物にした、等々、それほど年上とは思えない方々が瓜の記憶に興じる姿が印象的でした。それにしても、情報機器の進化ほどではありませんが、瓜の品種改良もかなりのスピードで進んだようです。
冷し瓜美濃の山垣霧込めに 清水青風
親の家おそれいるほど瓜冷えて 鳥居真里子
甜瓜の名は美濃の国の真桑村に由来します。美濃女の私には実感のある地名です。前句は、まさに真桑産の瓜を冷やしているのでしょう。かつては〈初真桑たてにや割らん輪に切らん 芭蕉〉と心待ちにされるものだったのです。
後句は西瓜と受け止めてもよいかもしれません。そのほうがピンとくる人が多いでしょう。季語の〈瓜〉はウリ科の野菜の総称ですから、甜瓜に限らず、姿を具体的に示す必要がないときに使ってみるのもよさそうです。
では、ウリ科の野菜の季語を、季節と種類を追って見ていきましょう。
まず種を蒔いたり、苗を植えたりするのは春です。生活の章の〈物種蒔く〉の項をチェックしましょう。
南瓜蒔く書斎の窓はここに開く 山口青邨〈春〉
弧を描いて天日めぐり西瓜蒔く 安住 敦〈春〉
単に〈種蒔(たねまき)〉というと種籾(たねもみ)を苗代に蒔く意になります。具体的な植物名を入れて〈○○蒔く〉と使いましょう。
ウリ類の花期は長く、春の終わりから秋まで咲きますが、季語として働くのはその最盛期である夏です。夏の植物の章を開きましょう。
過ぐるたび胡瓜の花の増えてをり 永島靖子〈夏〉
南瓜咲き室戸の雨は湯のごとし 大峯あきら〈夏〉
風呂沸いて夕顔の闇さだまりぬ 中村汀女〈夏〉
園芸種の夜顔(ヒルガオ科)を指して夕顔と呼ぶこともありますが、季語の〈夕顔〉はその実が干瓢の原料になるウリ科の植物の花を指します。
また野菜ではありませんが、これもウリ科です。
花見せてゆめのけしきや烏瓜 阿波野青畝〈夏〉
烏瓜は多年生の植物なので、冬に枯れて地上部分が無くなっても、次の年にはやはり同じ場所に花を咲かせ、結実します。
ウリ科が結実するのは、夏から秋にかけてです。
どうしても曲る胡瓜の寂しさは 原田 暹〈夏〉
新婚のすべて未知数メロン切る 品川鈴子〈夏〉
のように夏の季語もありますが、圧倒的に秋のほうが多そうです。
風呂敷のうすくて西瓜まんまるし 右城暮石〈秋〉
糸瓜棚この世のことのよく見ゆる 田中裕明〈秋〉
瓢箪の尻に集まる雨雫 棚山波朗〈秋〉
苦瓜といふ悶々のうすみどり 坂巻純子〈秋〉
さて、あなたがもっとも親しいのはどの瓜ですか?(正子)