今月の花(十月)錦木
ある年の秋、学校でお稽古に使う花材名が黒板に書かれていました。「錦木」と漢字で書かれた上にカナがふられていました。「ニシキギ?」声を出して読み上げた私は手元の花材を見ました。「故郷に錦を飾る」[錦秋」・・・ニシキと聞いて思い出した言葉に反して、その枝は華やかな語感とは程遠いものに思われました。枝には茶色のコルク質の羽のような翼のようなものが幅一センチほどついていました。枝は矯めると曲がりはするものの、コルク質がぽろぽろと落ちていきます。
学校でのお稽古から数年経た十一月、旅先で、燃えあがるような紅色の葉を大量にまとった木をみつけ近寄って見るとあの錦木でした。翼がしっかりついたあの枝は紅色の葉に隠れていました。その時初めてあの木の名前がつけられたわけを納得したのです。稽古に使った錦木はこの葉を落とした後のものだったこともわかりました。
ニシキギ科の錦木はその枝のコルク質の翼(よく)が特徴で、その様子からか「剃刀の木」という別名があります。少し尖った楕円形の葉はこのコルク質の羽が途切れたところに対生してつきます。秋には太めの茶色の枝に直径数ミリの赤い実が稜の間から下がって裂け、中にさらに小さい赤い種が見えます。檀(まゆみ)や蔓梅擬(つるうめもどき)もニシキギ科で、秋には美しい実をつけ熟すとその中から種が現れます。それに比べると錦木の実はやや小さくて見逃してしまいがちです。紅葉した錦木の葉は落ちやすく、いけ花にはその特徴ある枝を多くつかいます。
私が錦木のみごとな紅葉に初めて出会ったのは京都の古刹。端正なたたずまいに鮮やかなアクセントを加えている三メートルほどの高さの木は「錦上花を添える」という言葉がぴったりでした。紅の葉は束の間の輝きを見せた後、次々と落ちていきます。どこからか漂う落ち葉をたく煙とその香りが鼻孔をくすぐり、この木に出会ったことで私の古都の晩秋の旅は一層印象深いものとなったのです。(光加)