今月の花(十一月) 一位の実
秋も深まりゆく高原で、細かく密集している濃い緑の葉の裏に半透明の真っ赤な小さな実がひとつ付いているのを見つけました。葉の先を触ってみると意外にやわらかいものでした。見上げると木の高さは三メートルくらいあったでしょうか。
一位は成長すると二十メートルの高さになるものもあり、木肌の表面は縦に浅く裂けてはがすことも出来ます。実の付くのは雌の木で、同種のキミノオンコと呼ばれるものは 黄色い実をつけるのだそうです。少し膨れた仮種皮と呼ばれている実は上が開いていて種がちらりと見えます。種は毒をもっています。
春たけなわの頃には新芽がもりもりと出てきて その薄緑色は従来からある深緑の葉をうけて生命感にあふれたものとして映ります。花は小さくて目立たず咲いていてもなかなかわかりません。葉の付き方が密なので思う形に剪定もでき庭木にも植えられます。
一位の木は「オンコ」、またアイヌ語で「クネニ」という名前で知られています。アララギとも呼ばれますが、いけばなの大作で時々使うアララギは栂やコメ栂で別の品種です。
昔、母が北海道旅行のお土産といって十五センチくらいの木の女性像を買ってきました。それは、小さな顔の鼻や目ははっきりしていなくて、胸も小さく乳房がツンと上をむき、それに比べて丸い腰が異常に大きいのですが、何ともいえず愛らしい木像でした。「先住民族の人だと思うのだけど、その木を彫っていた顔の彫が深くて眉が濃いおじさんから買ったの」と母は言い、「名前がいいじゃない!これ一位の木というんですって。こうしているうちに手の油で艶がでるんですって」と像を撫でながら付け加えました。
あれから数十年、かの木像は何とも言えない茶色となり、細かい木目は相変わらず美しくて持てば軽く、一位の木が家の柱などの建材に使われるのは硬くて狂いが少ないからというのも納得します。
一位の名の由来は高位の人や神官が使った笏にこの木が使われたからだともいわれます。
女性像を改めて乾いた布でふき、そうだった、手の油ね、とひとなでしました。するりと手に優しい感触に晩秋の高原でみかけた愛らしい赤い実を久しぶりに思い出したのです。(光加)