【新連載】浪速の味 江戸の味(1月)待乳山聖天(大根焚き)・江戸
冬の野菜の代表格の大根。それを焚いたり、風呂吹きにしたりして振る舞う行事は各地にあり、歳時記には12月に行われる京都の鳴滝、了徳寺で行われる「鳴滝の大根焚」などが載っています。
東京浅草の待乳山聖天の「大根まつり」は毎年1月7日に行われます。当日、境内では「風呂吹き大根」とお神酒がふるまわれます。
浅草寺の支院である待乳山聖天はその名の通り標高約10mの山の上にあります。縁起によると推古天皇3年(595)9月20日一夜にして現れた霊山で、その時金の龍が舞い降りたとか。その6年後干ばつに襲われた時、大聖天歓喜天が現れ人々を救済したそうです。
聖天さまのご利益は、富貴と身体健全、子孫繁栄。そのご利益を象徴する待乳山聖天のシンボルマークは「巾着」と「二股大根」。なかなか現実的でわかりやすいことも人々の信仰が集まった所以ではないかと思います。
待乳山聖天の境内では、寺でお供えのお線香を売るように大根が売られています。大根は人々の罪や穢れの象徴で、それをお供えすることにより聖天さまに浄化していただくそうです。
1月7日は霊験あらたかな「風呂吹き大根」をいただこうと、朝早くから並ぶ人々で普段は静かの境内が賑わいます。今でこそビルが立ち並ぶ浅草ですが、昔は平らな浅草の町で待乳山はひときわ目を引く丘でした。広重はじめ、多くの浮世絵師が隅田川の様子とともに待乳山を描いています。
1月7日といえば「七種」。大根は「すずしろ」と呼ばれ春の七草のひとつです。小高い待乳山の境内でいただく風呂吹き大根に江戸の初春の風を感
じます。(光枝)
風呂吹き大根てふお宝を掌 光枝
今月からスタートしました「浪速の味 江戸の味」。浪速(大阪)の木下洋子さんと江戸(東京)の飛岡光枝が毎月それぞれの土地の季節の行事や食にまつわる事柄を紹介します。東西の地域性や土地の香りをお届けできたらと思っています。
毎月バラエティに富んだ料理を紹介いただきました「今月の料理」は12月をもってお休みとなります。岩井善子さんには、新たな料理の記事でご登場いただく予定です。どうぞお楽しみに。
(店長)