今月の花(二月) 赤目柳
すっかり葉が散った枝にぽつりぽつりと芽が膨らんでいるのは赤目柳です。
枝と同じ赤褐色の小さな芽がだんだんと艶やかに膨らんでいきます。いけばなの稽古に使い始めるのはこの頃からですが、やがてぐっと大きくなった芽が、春を知らせる色とりどりの新鮮な花とともに花材として教室に届けられます。
赤目柳の別名は振袖柳。枝はとてもしなやかで、曲線を作ったり輪にしたりしていけます。のびやかな線をそのまま生かしても美しいものです。太めの枝を切り、切り口に割りを入れて剣山にとめるのも、丈の長い花器には、この柳から添え木を作り先を割って花器のなかにたて、そこにほかの枝を割って交差をさせしっかりとめることができるのも、赤目柳にたやすく裂けない「粘り」があるからで、初心者にもふさわしい花材といえるでしょう。
春の足音が聞こえてくるのはこの柳の芽の鱗片がむける頃。
ツンとした頭の膨らんできた芽を指でむくと白銀色の花穂が出てきます。若い花穂の中心はまだ少し薄い緑が残っていることがあります。やがて、自らその皮を落としていくと、猫の尾のような指触りも気持ちの良い、猫柳と呼ばれるのにふさわしい白銀の花穂が現れます。いけばなに使われる猫柳は、猫柳と山ねこやなぎとの雑種の赤目柳なのですが、猫の尾の形をした花穂をもつ柳を見ればみんな猫柳と呼びたくなります。
枝は陽の当った側は赤茶色ですが ひっくり返すと同じところが緑です。どこから陽がさしていたかがわかり陽表、陽裏という言葉を思い出します。
昔ハワイに行ったとき、常夏の国の花屋さんには枝ものが極端に少なかったのですが、乾燥した猫柳がきれいに穂をたもったままありました。保存の方法が悪いとぱらぱらと落ちてしまうので、何か吹き付けたのかもしれません。
柳はバケツの水の中に入れて忘れたころに引き上げると根や、さらに薄緑の葉が出てきます。生命力の特別強い柳は何か動物のような気がします。五センチくらいに大きくなった花穂は最後には中心がぼっとピンク色を帯びてきて黄色い花粉がつきます。手のひらの中にこんな穂をひとつ隠し、友達の前にパッと差し出し、虫だ!といってキャッと驚かせた子供時代を思い出します。(光加)