今月の季語(2月)_探梅・観梅
二月に入るとすぐに立春を迎えます。寒中より寒い日もありますが、春の足音に耳を澄ましたくなる月です。
このころ新聞やテレビでよく取り上げられるようになるのが、この句、
うめ一輪いちりんほどのあたゝかさ 嵐雪
ではないでしょうか。人口に膾炙した句ですが、ときどき、梅が一輪一輪と咲くにつれ暖かさが増す、とことわざのように解されていることがあります。確かに「日にち薬」にも通じる希望の匂いがするフレーズではあります。
この句は「うめ一輪」で一度切って読みます。あ、咲き出した! 見つけた! と心を弾ませているのです。そのあとに「一りんほどのあたゝかさ」と読めば、暖かさと言ってはいますが、実は寒いのだということがわかります。たった一輪咲かせるだけの、でも確かに暖かさだと感じ取っているわけです。
現代の歳時記には、季語を〈梅〉として春の部に収められていることが多いですが、江戸時代の書物には、「寒梅」と前書がついて冬の部に入っている例があります。
〈寒梅〉〈冬の梅〉は冬のうちから咲き出す梅のことです。ことに寒梅のほうは寒中に咲く梅という意味で使われます。
これに対し〈早梅〉は春を待たずに早く咲き出した梅のこと。冬の梅のうちではありますが、品種は問わず、近づく春を感じさせるものです。嵐雪の句は暖かさを言っていますし、私は〈梅〉より〈早梅〉に近い匂いを感じます。
冬の梅あたり払つて咲きにけり 小林一茶
早梅を片言咲きと言ひとむる いのうえかつこ
早梅をもとめて山野を歩きまわることを〈探梅〉〈梅探る〉と言います。〈梅見〉〈観梅〉が春の季語であるのに対し、これらは冬の季語となります。
探梅のこころもとなき人数かな 後藤夜半〈冬〉
鳶鳴いて鎌倉山の梅見頃 武原はん〈春〉
このように梅の季節は冬から始まるのですが、本番はやはり春。〈梅〉とだけ言えば、春の季語となります。
梅が香にのつと日の出る山路かな 松尾芭蕉
近づけば向きあちこちや梅の花 三橋敏雄
一年でもっとも寒い月ですが、春の匂いをさがす楽しみは、今だけのものです。歳時記を春に持ち替えて、春の季語をさがしに出かけてみませんか。 (正子)