今月の花(五月)牡丹
四月末の中国の洛陽から帰ってきたいけばなの生徒が、様々な牡丹が咲き乱れる大きな公園に行った話をしてくれました。世界中から集められた様々な色と形の牡丹が咲き誇り、夜、ホテルの窓を開けると何ともいい香りで朝起きてみるとそれは並木道のように道の両側に植えられた数えきれないほどの白い牡丹からだったそうです。牡丹で有名な奈良県の長谷寺や当麻寺とはまた違ったものだったのでしょう。花王と呼ばれる牡丹の原産地は中国といわれていますが、日本でも平安時代には栽培されていたという記述も枕草紙などにみられます。
おなじボタン科ですが牡丹と芍薬の違いの一つは葉にあります。葉には三つの切れ込みがあり、薄いのが牡丹、艶があり牡丹に比べて濃い緑の葉は芍薬です。いよいよ蕾が開くときのわずかにツンとした蕾の先の表情も愛らしいものです。
立てば芍薬、座れば牡丹、と美しい人を形容するのに使いますが、芍薬はすらりと伸び、牡丹は脇枝が横に出ます。スレンダーな美女と豊満な美女、なのでしょうか。英語では両方とも peony という言葉を使いますが牡丹はtree peony 、一方芍薬はChinese peony と呼びます。牡丹はこのようにツリーと名がつくように2メートルほどの落葉低木です。品種改良には芍薬に牡丹を接ぎ木して、美しい花を咲かせるということも行われます。
牡丹の花の華やかさは世界中で好まれ、日本でも実際に庭に植えられるのみならず屏風やふすま絵などをはじめとする図柄などにも用いられます「石橋」から題材を求めた「連獅子」などの舞台の上には華やかに作られた牡丹が登場します。
黄色や濃い紫など花弁の色は様々で、その散り方にも特徴があります。
牡丹散りてうち重なりぬ二三片 蕪村
以前、俳句のテレビ番組のゲストに呼んでいただいたことがあります。収録の時、普通の花屋さんでは入手できないので、いい機会とばかり取り寄せてもらい一輪の薄紅の牡丹をいけておきました。終わると「はい、OKです!お疲れ様でした」の声がかかり、緊張が一気にとけました。
スタジオの照明でみるみるうちに満開になっていた牡丹を、待機していた花屋さんが片付けようと手に取ったその時、はらはらと花弁が散っていくのです。「あ、よかった。終わるまでもって!」と彼は言ったのですが、カメラが回っているうちに散っていく想定外の展開も俳句の番組らしくてよかったかな、とふと思いました。
昔から今に至るまで、牡丹は多様な歴史につぎつぎとエピソードを付け加えていきます。(光加)