今月の花(六月)梅花空木
時々入るカフェのカウンターに,その日は小さな白い花を数輪つけた四十センチほどの一本の枝が迎えてくれました。透明なガラス花器に何気なくいれられた枝についた花は四枚の白い花びらの中央に黄色い雄蕊があり、青々とした卵型の葉がたくさんついていました。
私の教室では五月の連休あけ、やや遅めの花菖蒲をいける稽古で梅花空木も併せていけました。梅の花に似ているのでこの名となり薩摩空木、五月梅ともよばれます。緩い放物線を描く梅花空木の枝を加えると、花菖蒲のすっくと立った葉の凛とした美しさに優しさと柔らかさが加わるようでした。季節が急にうつろっていくこの時期、雪のように白い花をつけた梅花空木と花菖蒲を一緒にいけるのもなかなか良いものと思いました。
黒光りしているカウンターごしにコーヒー皿を拭いているマスターに「これは何の花ですか?」と聞いてみました。「梅花空木だそうです。お客さんが軽井沢から持ってきてくれて」。連休を軽井沢ですごした常連さんが、花をとおして爽やかな空気までお土産に運んできたのだと想像しました。
質問をしたもう一つの理由は前日に稽古でいけた花と比べ、カウンターの花はやや小さかったからです。私たちが前日いけた花はそれより大きい北アメリカ原産の西洋梅花空木だったかもしれません。花屋さんで扱うのはこの種類が多いのです。
これに対し軽井沢から大事に持ってこられたのは山の中で二センチくらいの花が開く日本原産の梅花空木だったのでしょう。
梅花空木には八重咲きもあり、私のお気に入りは白い花びらの底が薄紅色の日の丸梅花空木です。
また梅花空木と似たような花を見かけたらそれは、ばら科の利休梅かもしれません。中国原産で、こちらもいけばなに使われますが明治に入ってきたものです。千利休との関係はわかっていません。枝わかれをよくして高さも三メートル以上になり、花びらは五枚で花に柄があります。梅花空木の花の咲き方に比べると花どうし密に咲いています。
梅花空木も利休梅も枝の元を水の中で切り、切り口をたたいて割れば水の上りもよくなりより長く楽しめるようになるはずです。(光加)