今月の花(八月) バナナ
実芭蕉という美しい名前を持つバナナ。子供のころはおやつに1本、お弁当のデザートに1本と生で食べるものでした。大人になってからはタイのホテルのバナナのパウンドケーキのおいしさが忘れられません。
以前は日本で売られているバナナは台湾からが主流でしたが、今ではエクアドル、フィリピンなど各地から大きさも色も多様なものが店頭に並びます。
ナイフとフォークを使ったバナナの正式ないただき方というのがあるそうですが、ホテルの朝食の時、見回しても見たことがありません。今では簡単に食べられる庶民的な果物の代表となっています。
ある年、いけ花の生徒が夫君と転任しているパプアニューギニアにデモンストレーションで伺うことになりました。遠い日本から来るのであれば、ぜひ年に一度、マウントハーゲンという高地でのお祭りの時にというお勧めがあり、初めてかの地を踏みました。世界三大奇祭というそのお祭りは、何十もの部族がそれぞれ独特の衣装で、顔や体にペインティングをして踊るというものでした。
現地に着くと、まずバナナの林の中に案内されました。地面を掘った中には、何かにバナナの青い葉が何重にもかぶせてありました。これから豚を一頭蒸し焼きにしてお祭り料理を作るというのでした。土をかぶせる前に私たちに見せようと待っていてくれたのです。この時のバナナの緑の葉をみて、琉球芭蕉という糸芭蕉の葉を東京の展覧会でいけたことを思い出しました。
部族の祭りは私が今までに見たことのないエネルギーと色の反乱でした。私は圧倒されて高地から首都のポートモレズビーに帰り、いよいよデモンストレーションの準備に花屋さんへ向かいました。その帰り、道端でバナナの実が房で売られていました。同行していたインドネシア出身の生徒は、蒸したり、春巻きのような料理を作ると話していました。
私は、小ぶりの実を40~50個付けた青いバナナをデモンストレーションに使うことにしました。赤いヘリコニアといけると緑と赤の対比がきれいだろうなと想像したのでした。
ところが次の日、バナナはひとつ残らずきれいな黄色になっていました。この地の温度を考えないで準備室に置いたことを反省しました。本番では、この花材が舞台に登場すると「うわ」という反応と笑いが起きました。
そしてその後、バナナを使った作品は地元の新聞に載りました。見出しは「ⅠKEBANANAーーイケバナナ」、なるほど。(光加)