今月の花(三月)花蘇芳
花蘇芳は葉が出る前の枝にびっしりと紅紫の花がつきます。一輪は大きくても二センチほどですが、満開を迎えた時はひしめきあって咲く花たちのさざめきがきこえてきそうです。
春も浅い頃、固そうな茶色の蕾の塊に気づきます。前年の葉が落ちたところや古い枝のもとにかたまってしがみついているかのような姿に、もしや小さな昆虫の卵かしらと思ったものです。
花芽が膨らんで蘇芳色の花弁の先を見せる時、春は一気に進んでいきます。花が終りにさしかかる頃、花の間から葉が出てつややかな緑のハート型の葉へと成長します。春の終りには花がすでに豆になっているものもあり、さやえんどうのような五~六センチの平たい豆がさがります。
同じマメ科の花、たとえばスイートピー、萩の花、エニシダの花などを想像してください。これらの花は蝶形花と呼びますが、花蘇芳の花の場合は上の中心にある花びらが両側の花びらより内側にはいっています。
花蘇芳の花の色は同じマメ科の蘇芳の木の枝から採れる染料の色に似ているため「花」蘇芳と呼ばれます。本来の蘇芳の花はこの赤紫の色ではなく黄色いのだそうです。
十二単の重ね(襲ね)の色の中に、何通りも他の色との組み合わせがある蘇芳の色ありますが、染料をとる蘇芳は花蘇芳とは別のものです。花蘇芳が中国からもたらされたのが十七世紀末といわれていますので平安時代にはなかったものです。蘇芳から採れる染料の色に花の色が似ているので名づけられたのでしょう。
花蘇芳は同じ形の花で白い花をつけるのもあります。いける時は注意をしないと手を触れると花がぱらぱらと落ちてしまいます。水揚げも枝の元に割りをいれて長持ちさせます。
そのほか 花がやや小ぶりの北米原産のアメリカ花蘇芳もあります。また十メートル以上の高さにも成長する西洋ハナズオウは英語や他のいくつかの言語でも「Juda’s tree」、ユダの木と呼ばれます。キリストの十二人の使徒の中でキリストを裏切ったユダがこの木の下で亡くなったということからつけられたそうで、花も花蘇芳に似ている愛らしい西洋ハナズオウには迷惑な名前です。(光加)