今月の花(五月) 鉄線
初夏の風に「鉄線」の花が気持ちよさそうに揺れています。「クレマチスでは?」と思われる方もあるでしょう。キンポウゲ科センニンソウ属の学名がクレマチスで、「鉄線」や「風車」はクレマチスが属する種の名前です。「現代いけばな花材辞典」によると、「鉄線」は安土桃山時代にはすでに中国から渡来しており、原種の白い花は先が尖った花弁が六枚。また、日本や大陸の一部に自生していた「風車」は元は白や薄紫の花弁が八枚で、江戸中期にはすでに栽培されていたそうです。
今では花びらが四枚、六枚、八枚のもの、また色も白の他、紫、ピンク、ブルー、赤、黄色など交配された園芸種が数限りなく生まれています。固く細い茎をもち、天を仰いで平たく花びらを広げるものや八重咲きのもの、また、ヨーロッパや中央アジア原産の真直ぐのびた茎に小さなベルのような花が下を向いて咲くベル鉄線のような種類も花店でみかけるようになりました。
半世紀近く前、アムステルダム郊外の運河の多い街に知人の友人を訪ねた時、小さな堀を渡る自宅の玄関に何十と花をつけた薄紫のクレマチスが茎をぐるぐると鉄の線の円柱にまきつけて咲き誇っていました。日本ではまだそんな光景は見たことはありませんでした。花が盛りのころ、静岡県三島市のクレマチスの丘に立つとその時のことを思い出します。
クレマチス類を長くもたせるためには、茎が固く細いものは必要な長さに切った後、切り口をたたいて水にたくさん触れるようにします。「いける時は数が多いと茎をたたく時間がもったいなくて、奥歯で噛んだものだよ」と昔、お花屋さんの番頭さんが教えてくれました。
せっかく水が上がっても花弁はやがてはらはらと一枚また一枚と散っていきます。花が散った後に残す種も個性的です。属名になっているせんにんそう(Clematis temflora)は四枚の白い小さな花弁があり、終わって花柱の先につく長い毛状のものが仙人の髭に似ているからという説があります。
クレマチスはそれぞれ独特な実をつけます。髪を振り乱したようなもの、台風が移動していく図のような右周りや左回りのものもあります。日本や大陸に生育する「風車」の名前は、ふっと花に息を吹きかけたり、風が吹いた時を想像した命名と思っていましたが、たくさんの実の形からも名づけられたかもしれず、どちらにしても名を考えた昔の人の発想に大いに共感したのです。(光加)