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カテゴリーアーカイブ: 花

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まゆみ

caffe kigosai 投稿日:2014年11月14日 作成者: koka2014年11月28日

mayuminomi
「あら!私の木だ!」

お稽古に来たまゆみちゃんが驚いたのは、ピンク色の実が華やかにいくつも下がっている枝を見た時でした。まゆみは檀、真弓とも書き、女の子の名前によくつけられます。

ニシキギ科に属し、5メートルくらいの高さにもなりますが、花は目立ちません。しかしなんといってもこの木の一番の見ごろは、秋が深まり、1センチほどの大きさでくっきりと4辺の稜がある実が枝から下がるころです。色は濃いピンク、淡紅色、そして白に近い色もあり、やがて4つの稜の先がわれ、中から種を包んでいる赤い仮種皮が現れて、枝は一層にぎやかになります。

この日本原産の木が濃いピンクの美しい実をつけているところを、ドイツでも見たことがあります。シーボルトが日本から持って帰ったたくさんの植物の中にあったのでしょうか。

楮や三椏のように古くはまゆみはその皮をはぎ、漉かれて紙として使用され、檀紙と呼ばれました。今でも作っているところがあると聞いています。

枝に弾力性があるところから、かつては弓の材料として用いられ、真の弓として、真弓とも表記されました。

生まれてきた女の子にこの名前をつけた人たちは、その子がまゆみで作られた弓のように、矢をつがえて引き絞った分だけ力をため、放たれた矢のごとく悪を払って困難を跳ね返してほしい。そして秋には美しい実を結ぶがごとく、その子の人生が豊かなものとなるようにという願いをこめて名前を選んだのでしょう。

弓を作る植物としては竹もあります。雪の朝、竹が雪をはね返すしずりの瞬間を見れば、その力強さは弓を作るのに欠かせない竹の性質だとわかります。

梓(あずさ)もかつて弓の材料でした。あずさゆみーという枕詞は植物の梓からきていて、弓という言葉から引く、張る(転じて春)などの言葉を引き出します。別名みずめといい、春、山の中で木々の中に、垂れ下がった花序を付け、それが9センチくらいにもなるものがあったらこの梓かもしれません。檀と同じく女性の名前にもなっています。

檀や梓のように女の子の将来を植物の性質に託し、願を込めた名前をつけることは、日本ならではのことなのでしょうか。日本人ではない友人たちの顔を思い出し、今度名前の由来と意味をきいてみたいと思っています。(光加)

柿

caffe kigosai 投稿日:2014年10月16日 作成者: koka2014年10月18日

kaki
晩秋、農家の軒先に干し柿が行儀よく吊るされている光景は、自然界のなかに色が急速になくなってくるこの季節には特に目を引きます。吊されている柿を見上げては、さては渋柿だな、とつぶやきます。柿の渋みをぬくためには、干すことの他に焼酎などのアルコールにつけるなど様々な方法があります。

柿は種類も多く、秋に実がなった時はそのさまざまな形が目を楽しませてくれます。柿が私たちを楽しませてくれるのは実りの時だけではありません。春から夏の、陽を照り返すような萌える若葉、初夏の薄緑の花。そして秋の紅葉は、道に落ちているとその自然の作り出した微妙な色合いに思わず手にとってみた方もあることでしょう。

柿は、気候が温帯に近いところでは、世界各地にあります。ローマに行った時も枝に数個実った柿を切っていけたことがあります。イタリア語でもカキとよんでいると教わりました。カキという言葉は学名(Diospyros kaki)の最後につきますが発音しやすいこともあるからでしょうか、数か国語で(かき)で通じます。

柿の木は家具にもなるくらい固く、その枝は太くなるとのこぎりを入れるのもなかなか大変です。実は、なます、お菓子、柿酢など食料としてあげていけば留まるところを知りません。奈良には柿の葉寿司がありますが、柿の葉でくるんでいるのは、含まれるタンニンが腐敗防止に役立つのでしょうか。平たい種だって用がないわけではありません。薄いので、種飛ばし大会で活躍します。

柿のなかでも豆柿は、この季節のお稽古にも出てきます。木そのものは10メートルを超すものもある一方、下がっている実の胴回りは直径10mmくらい、先はわずかにとがり、長さは15mmくらいでしょうか。ちゃんとヘタもついていて、枝に鈴なりになっていることもあります。小さくてもしっかりと柿の特徴を受け継いでいるように見受けられますが、豆柿は柿とは属が違っていて学名にもkakiという字はつきません。

豆柿からも青柿のころに柿渋を取ります。柿渋は腐敗防止の下地の塗料などで知られていますが、近頃は、化粧品にも用いられているそうです。

塗ることにより劣化を防ぐ訳ですから、肌の老化に、つまりアンチエイジングにも当然役立つのでしょう。生活に密着している柿にさらに一歩ふみこんでもらって、その活躍をこれからも大いに期待したいところです。(光加)

シンフォリカルポス

caffe kigosai 投稿日:2014年9月8日 作成者: koka2014年9月9日

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秋になると木々には様々な実が色づいていますが、その中で白い実を見ることは意外に少ないものです。

シンフォリカルポスはその一つ。木そのものは1mから2m位の灌木で、夏に開く花は小さくて目立ちません。真珠のような丸い粒が枝に付きますが直径1cm前後で色は不透明で冷たい色感をもつ白です。プクプクとした大小の実が枝についているところをみると、思わず触ってみたくなる愛らしさがあります。たくさん実がつけば重みで枝は垂れ下がります。実は白の他に薄いピンクや、ルビー色、濃い赤もあります。切っていけていると実が熟していくうちに葉はだんだんと落ちていきます。

シンフォリカルポスという名をはじめて聞いた時は、競馬で走っている馬の名前みたい、と言ってしまいました。

英語ではsnowberry (スノーベリー)、雪の実といわれれば、こちらのほうがなるほどと思います。もともとアメリカにあった雪(せっ)晃(こう)木(ぼく)を観賞用に品種改良されたもので、雪晃木にも白く丸い実がなるそうです。

シンフォリカルポスという名はもともと属名で、カルポスがギリシャ語では実を意味します。何科に属する植物かといえば、すいかずら科というのは意外でした。

すいかずら科の代表は何といってもすいかずらで、忍冬ともいい、蔓性です。白く咲いた花が終わりの頃には黄色になり、ふたつの色が同時に枝にあることから金銀花と呼ばれ英語名はhoneysuckle ,ハニーサックルです。それがこのシンフォリカルポスとどこがどう共通なのか、だれとだれが血のつながった親戚といわれても、にわかに類似を見出すのに戸惑があるのと同じです。

シンフォリカルポスは12月くらいまで実をしっかりつけているそうですが、花屋さんで見かけるのは夏が終わってから秋に移っていく時です。秋も深まり、実ものが熟して色も豊富な様々な種類のものが次々と花市場に登場すれば影をひそめます。シンフォリカルポスは実を楽しむ季節の、先導をしているのでしょうか。

ふと気が付くと周囲から消えているこのシンフォリカルポス。季節から季節へと、あっという間に駆け抜けていくのです。(光加)

カテゴリー: à la carte (アラカルト), 花

à la carte  さんきらい

caffe kigosai 投稿日:2014年8月21日 作成者: koka2014年9月5日

sankirai
「さんきらい」という名で呼ばれ、緑の葉の間からのぞく丸い実をつけた蔓性の植物。夏から花屋さんにも出回りますが、それは別名「さるとりいばら」と呼ばれる植物です。実は数個が節から球体を作るかのように放射状についています。丸くて先端がちょっと突き出した葉を一枚手に取ってみると、かすかに波を打つ両側の葉の縁は中を向き、元から葉先に向かって数本の葉脈があります。節からは蔓性の植物の特徴である巻きひげがでています。

棘には気を付けてください、不用意に手に取るとチクリとするものがあります。さるとりいばらという名前が付いた理由を実感することでしょう。蔓はジグザグの線を描き、たやすく折ることはできないほど丈夫なのに、まげて形を付けられる柔軟性があり、鋭い棘に敏捷な猿も手足をとられるということなのでしょうか。

実と葉のついたさんきらいを季節の植物と一緒に竹籠に入れてみても、器を柱にかけて実と葉のバランスを考えながら垂らしても、蔓をさっと巻いて白磁の壺にいれても、ガラス花器に葉をとっていけて奔放に実を遊ばせても楽しめます。萩焼の女流作家の展覧会で彼女の小さめの壺に、出始めた白いリンドウを少しとさんきらいとをさりげなく入れたところ「まあ、清々しいこと!いけた、というより器の中から出てきたみたい」と喜んでくださいました。その作品を求めた方も「お花も一緒にいただけるかしら」と持ち帰られました。

年末には、葉をすっかり落とし赤い実だけになったさんきらいがクリスマスリースやお正月の松の緑とともにいけられているのを、あちこちで見かけます。この時期は需要が多く、国産のものだけでは間に合わないこともあって輸入もされています。実の色は鮮やかな赤なのですが落ちやすく、棘も多いように思えるのは、日本への輸送の方法に問題があるのでしょうか。

冬になれば赤い実は他にもたくさんあるので、私は夏の時期の滴るような緑のさんきらい、さるとりいばらに魅力を感じます。そのまん丸な青い実の表面に、ぽっと赤みがさしているのを見つけた時、それはしのびよってくる秋への信号がともった時なのです。(光加)

カテゴリー: à la carte (アラカルト), 花

à la carte  女郎花

caffe kigosai 投稿日:2014年8月18日 作成者: koka2014年8月19日

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桔梗となでしこ、そこに女郎花が刺繍された母の麻の帯は、小さな子供だった私の一番のお気に入りでした。

炎天下から帰宅、白い日傘をたたんだ母は玄関をあがってきて帯をといて着替え、ぎゅっとしめていたため湿気でしわになったところをちょっと延ばしながら「干しておくのだからそのままにしておいて!後ですぐハンガーにかけるから。帯で遊んでは駄目よ」という声を残して「暑い、暑い」といいながら顔を洗いに奥にいってしまいました。

手刺繍された帯の花たちはいきいきとして、なかでも黄色い花のちょっと糸が盛り上がっているところを触ってみるのが好きでした。女郎花を別名粟花とよぶのは粟独特の粒のように見える黄色の花が寄り集まって一つの花になっているからなのでしょう。

女郎花が秋の七草のひとつで、山上憶良の万葉集の時代から愛されてきたということを教えられたのは後になってからです。おみなえしはどうして女郎花と書くのかと思っていましたが、この花の「女郎」は若く美しい女性という意味で、遊女という意味ではないことも知りました。高さは1メートルにもなり、葉は細かい切れ込みがあって、茎から対生しています。花茎もおなじ黄色で細く、たおやかで軽やかです。よく一緒にいけられる吾亦紅のような、深い赤で重みのある色ともよく合うのは、女郎花の少しくすんでいる黄色のせいでしょうか。

女郎花に対して男郎花(おとこえし)という花もこの季節に白い花を咲かせます。

花の形は女郎花と似ていますが、より大きく丈もあり毛が多く、やはりおみなえし科おみなえし属です。ところがどちらもも古くなると、これはいったいなに?というにおいがしてくるのです。もともと根を乾かして生薬とするのですが このとき敗醤、つまり醤油が腐ったようなにおいを発します。当然いけたあとはこの成分が水の中にも溶けていきますから女郎花をいけたら、花をめでるとともに毎日鼻をきかせ、においがひどくなったら花器から退場願う、これが私のレッスンのときの女郎花をいけるポイントのひとつなのです。女郎花と男郎花、このカップル(臭い仲)なのです。(光加)

カテゴリー: à la carte (アラカルト), 花

きんぐさり

caffe kigosai 投稿日:2014年7月4日 作成者: koka2014年7月19日

きんぐさり
今までに数えきれない花や枝や葉をいけてきましたが、私がどうしても手にする機会のない植物が日本の中にもまだあります。

その一つが このきんぐさりなのです。

本でこの花を使った作品を見たことはありますが、花屋さんでも実際には見かけたことがないのは、この木に毒があるというのが理由でしょうか。

遠くから見ると黄色い藤の花が下がっているように見えるからか、(きばなふじ)という別名があり、藤とおなじくマメ科ですが、やはり春に黄色い花をつけるエニシダに近く,分類ではエニシダ属なのです。

本州の中心より北で咲いているといわれるのですが、その時期を逃しているのか、北国に行っても間近で見ることはありませんでした。

ところが今年、思いがけなくフィンランドの首都ヘルシンキで「きんぐさり」に出会うことができました。路面電車が行き交う町の中心の大通りの真ん中、緑地帯に大きな木から今を盛りと金の鎖を下げたようにこの花がいくつも咲いていました。原産地のヨーロッパも北では、この木は大きく成長するのだそうです。

北欧独特の澄みきった青い空から緑の葉をつれて光のシャワーが降り注いでいるようでした。花房は思いのほか長く、一番長いものは40cmもあったでしょうか。手に取ってみると一つ一つの花の形はまさにえんどうやスイートピーといったマメ科の花の形と同じでした。夏至の祭りのときはほとんどこの花は終わりなのに、今年は長く咲いているのだそうです。

海に面したヘルシンキの街は大きな起伏があり坂が多く、道に迷ってしまったとき(海の方向はどちら?)と聞けば(どっちの?海だらけだよ)という答えが返ってきます。

何度も来ているこの町ですが、この白夜の季節はこの有名な大通りの数本の「きんぐさり」を目印にして歩く楽しみがありました。初夏から夏にかけて一年で一番外で楽しむ季節になったことを、遠くからでもぱっと目立つきんぐさりはこの国の人たちと一緒に喜んでいるかのように咲いていました。

短い夏至の休みがおわると、サマーハウスにいっていた人たちはそれぞれの街にもどり、長い冬への準備を頭の隅におく季節になるまで、精一杯夏を謳歌するのです。(光加)

à la carte_夏椿の花

caffe kigosai 投稿日:2014年6月20日 作成者: koka2014年6月30日

natutubaki
祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色
盛者ひつすいの理(ことはり)をあらはす

平家物語は沙羅双樹の花ではじまります。夏椿という名のほうがおなじみの方も多いことでしょう。ただ、お釈迦様の亡くなられるときに生えていたという、「サラノキ」という植物とは今、私たちの言う沙羅双樹とは異なるといわれています。

葉の元からでている花柄の先に、初夏から本格的な夏にかけて、真ん丸の蕾をつける夏椿。蕾の表面が微かな光を発しているように見えるのは、花弁の外側にごく細く短い毛があるからです。小ぶりの花の五枚の花びらの縁にはわずかにぎざぎざが入り、この季節の花だけがもっているひやりとした触感を感じさせる上品な白です。

光沢のある椿の葉と見比べれば、夏椿の葉は緑色も優しげで、裏返せば葉脈もはっきりしています。葉は先に細い楕円形で、薄いせいか全体に軽やかな印象をあたえます。椿と夏椿はきものでいえば、袷と単衣の違いと言っていいでしょうか。

木の表皮がはがれ、その下から現われるすべすべとした美しい木肌は、庭木や床柱として使われる(ひめしゃら)を思いだします。(夏椿)(ひめしゃら)そして(ひこさんひめしゃら)は、つばき科のなかでも同じ「なつつばき属」に属します。

夏椿の花は一日花で、雄蕊の集合した中心部は茶色になっていき、花びらも生気を失い、やがて花ごと落ちていくのです。しおれて落ちているこの花の周りに漂うはかなさには胸がいたみます。

「浮世の果ては皆小町なり」(芭蕉)

これは凡兆の「さまざまに品かはりたる恋をして」に芭蕉がつけた句です。絶世の美女と言われた小野小町も末は無残にも老いてしまう。誰も例外でありません。夏椿もせめて私たちが気付かない間に、ひそかにたくさんの恋をしてほしいと願うのです。(光加)

カテゴリー: à la carte (アラカルト), 花

à la carte_ オクラレルカ

caffe kigosai 投稿日:2014年5月13日 作成者: koka2014年6月21日

チタン 切る前 005 (2)植物の名は仕事上きちんと覚えなければいけないのに、聞いたときにすっと頭に入らないものがあります。

細長い緑の葉をもったオクラレルカ。オクロレウカとも呼ばれるこの植物、カタカナの名前の響きと、なんともあっさりとしたどこか日本的なこの植物の姿が一致せず、この植物に出会ったころは次の時に名前を思い出すのに苦労しました。アヤメ科に属し、長大アイリスという別名もあります。

葉は、同じくアヤメ科の花菖蒲に似ているようにみえるのですが、葉の中央には花菖蒲にある太い線は通っていません。むしろ少し丈は短いですが同じアヤメ科の杜若の葉に似ているかもしれません。剣のような葉先には爪と呼ばれるカギ型の部分もあります。

この時期、大地の下に潜む夏の力にぐんと押し上げられたような葉はその緑をいっそう濃密にしていきます。葉の幅も早春の時のものとくらべると広くなり、高さも1メートルをこすような成長を見せるものもあって、一気に葉に勢いが出てきます。花店にでまわるのは花でなく、この葉のほうです。花はアヤメやアイリスにそっくりな形で色も紫色、花弁の元には黄色も入っていて美しいのですが、あまり見かけないのは、他にも似たような花がこの時期いろいろと手に入るからなのでしょうか。

一株をつくっている数枚の葉は、肉厚ではなく、平たくて折れやすくデリケートです。それだけに取り扱いは注意が必要です。

端午の節句には花菖蒲をいけますが、花とともに整った美しい花菖蒲の葉を必要な数だけそろえたいとなると、それはまた花屋から別料金の請求になることが多いのです。花菖蒲をいける時の約束事はさておき、どうしても自由に、ふんだんに葉を使って作品を青々とさせたいとなれば、この葉の形が似ているオクラレルカの力を借りることもあります。

代わりに使われるからといって葉に主張がないわけではありません。

切りとられても、まだすくすくと伸び続けているかのような清々しい緑は、この時期のほかのどの葉よりも目をひきます。このオクラレルカだけを多めにバッサリと器にいれてみれば、それだけで他の花などいれなくてもいいなあと眺めてしまいます。吹いてくる風が肌にあたる温度も心地よい、梅雨の前の貴重な時を、この葉とともに同じ屋根の下で過ごすのもなかなか良いものです。(光加)

オクラレルカ緑濃くして風薫る  光加

カテゴリー: à la carte (アラカルト), 花

à la carte_ ライラック

caffe kigosai 投稿日:2014年5月8日 作成者: koka2014年6月21日

rairakku
ライラック、というよりフランス語でリラと呼ぶほうが、ヨーロッパの香りを運んできてくれそうなこの花、もくせい科で香水も作られます。

明治時代に日本に入ってきたライラック。この花が咲くと、当時の人々はさぞ(ハイカラな花だ)と喜んだ事でしょう。今では、北海道など北の地方で初夏の爽やかな季節によく見かけます。

細めの枝の先に小さな花が集まって房となり、薄緑の卵型の葉は徐々にその緑を深めていきます。花屋の店先ではそれぞれ濃い紫、紫、ピンク、白などの花房を競っています。真っ直ぐな茎にほとんど葉をつけないものも出回っています。そんな種類は輸入物のことが多いのだそうです。

モスクワに行ったのは、ソビエト連邦からロシアになった次の年の春。先輩の講師と私で、元は映画館だったという600人収容の会場でデモンストレーションを依頼されました。

早速、花材集めのため街にでて、エリツイン大統領がラジオで民衆に呼びかける放送をしたというがっちりとした建物の前を通り、2箇所の花屋に案内されました。一つは国営でもうひとつは民間のもの。予想通りデモンストレーションにむきそうなものは両方の店でもⅠ、2種類しかありませんでした。

青空市が立っているという道に抜けていくと、それぞれの店の板の上にはアンテイークのグラス、ライターや人形、手編みのマフラーや財布などがぽつりぽつりと並んでいます。その中の一軒でブローチを手に取っていると〔外貨を持っているのなら安くする〕と、寄ってきた男が耳元でいいました。

気がつけば紫と白のライラックを抱えて声をかけている人たちが立っているではありませんか。眩しい光の中で腕の中のライラックはどんな商品よりみずみずしく見えました。まさに今朝、自分の家や近所から切ってきたのでしょう。水につけないとすぐしおれてしまうライラック。30センチほどの長さに切られていたため、花の房の先はうなだれてしまっていました。しっかりしている花を選んで譲ってもらい、すぐさま準備の場所の大使館のガレージに持ち帰り、水を入れたバケツの中で数回元をきりました。30分もつけておくと、花の先から次々にぴんとしてきて上品な香りも復活し、胸をなでおろしました。

花を売る人がいるということは、また花が好きでこの人たちから買う人もいるのでしょう。花売りはお年寄りのほか主婦や学生のような人も見受けました。新しくなった国の体制への期待と不安の中、庶民の尽きない逞しさも感じました。

今では、モスクワには私の属すいけばなの流派の支部は三つあります。あの日舞台の上から、ライラックはここ、モスクワで手に入れたもの、という説明がなされると、見つめている満員の観客の空気がふっと緩むのを感じました。ライラックの花が、二つの国にごく小さな橋を架けた瞬間だったのではないでしょうか。(光加)

ライラック夢のつづきを見たき朝  光加

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ラナンキュラス

caffe kigosai 投稿日:2014年4月17日 作成者: koka2014年6月21日

ranan
日に日に暖かさを感じる頃、それにタイミングをあわせるように春の光と空気を薄い花びらの間にためこみながら、ラナンキュラスはだんだんと大きくなっていきます。婚礼準備中のホテルの作業場で、大きな薔薇と見紛うような白いラナンキュラスが晴れの日のテーブルを飾るべくたっぷりといけられているのを見かけました。

コロンとしたこの花の小さな蕾だけをみていても、あとでかさかさと音がしそうな紙のような花びらが、種類によっては200枚以上もあるものに成長していくことは想像できないでしょう。

この花は一重の小さいものから開くと直径15センチくらいになるものまであり、色もピンク、白 黄色 赤、オレンジ、紫、また縁取りのあるもの、色の混じったものなど様々です。はっきりした明るい色が、(ラナンキュラス アシアテイクス)とよばれる種類から様々に改良されたこの品種の特徴です。形も八重はもちろん、半円球から円球に近づくのではと思える開き方をするもの、中には縁取りがあったり、くしゃくしゃとした花びらのものもありこの花に魅了された人たちによってあらゆる色と形が今でも作り出されています。

球根から発芽するラナンキュラスは、もともときんぽうげ科のきんぽうげ属です。そのきんぽうげ(金鳳華)の別名は(馬のあしがた)。きんぽうげ属のなかで他に日本の野原でみかけられるものといえば、(きつねのぼたん)という植物があります。

もともとラナンキュラスの名前の(ラナ)は(カエル〕それもラテン語で小さなカエルを意味するそうです。その名前は、この植物が水に近い場所を選ぶ性質から来ているらしいのです。また、葉の形がカエルの足に似ているからともいわれれば、水かきのようにも見える葉をながめているうち、カエルの化身かと思えてきます。いずれにしても動物の名に不思議と縁のある植物です。

改良種の中には丈の短かめのものもありますが、花の大きさにくらべて細く長い茎が気にかかります。こんな茎の繊細な線で、薄くはあるがたくさんつけている花びらを支えられるのかと思ってしまうのです。そんな心配をよそに、ラナンキュラスの花は、ニュウッと伸びた茎の頭にバレエの衣装のチュチュのような軽やかさと華やかさをもった花をかかげ、春の進み具合をきょろきょろと偵察しているようにもみえます。

そして自然界では動物たちの動きも一段と活発になっていくのです。(光加)

ヴィーナスの息ラナンキュラスをふくらませ 光加

カテゴリー: à la carte (アラカルト), 花

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「カフェきごさいズーム句会」のご案内

「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

  • • 第二十八回 2025年7月19日(土)13時30分(今月は第三土曜日です)
  • 前日投句5句、当日席題3句の2座(当日欠席の場合は1座目の欠席投句が可能です)
  • 年会費 6,000円
  • 見学(1回・無料)も可能です。メニューの「お問い合せ」欄からお申込みください。
  • 申し込みは こちら からどうぞ

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スタッフのプロフィール

飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
岩井善子(いわいよしこ)

5月生まれのふたご座。華道池坊教授。句集に『春炉』
高田正子(たかだまさこ)
 
7月生まれのしし座。俳句結社「青麗」主宰。句集に『玩具』『花実』『青麗』。著書に『子どもの一句』『日々季語日和』『黒田杏子の俳句 櫻・螢・巡禮』。和光大・成蹊大講師。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
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12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
花井淳(はない じゅん)
5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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