白山は水が良い。特に手取川水系は水質において高く評価されている。水の善し悪しが重要な液晶や電子部品のメーカーが多数大きな工場を建てている。もちろん酒造りもさかん。となれば川魚の美味しいのは必然、まして上流域の岩魚はことさらである。
白山をご神体に仰ぐ白山比咩神社はこの手取川扇状地の扇のかなめの地に鎮座されている。その社の真後ろに知る人ぞ知る『いわなの庵』がある。谷川の水をそのまま生簀に流し自然のままに養殖している。
店はその生簀のすぐ脇にある。夏のみの営業で今頃は若葉風が通り、谷川からは雪解水の流れが聞こえる。中央には囲炉裏が置かれ客はそれを囲んで座る。炭火が熾り、串に刺された岩魚が立ちて並ぶ。焼き上がりまで約40分、庵の親父はせわしなく炭の具合を見、串の角度を変えたり表裏を返したりして余念がない。奥さまと娘さんは塩焼きに合わせる炊込みご飯や山菜の和え物、みそ汁など用意する。
焼き上がった岩魚は食べやすい20センチくらい、頭からかぶりつく。この時の感動がすごい。頭や骨を噛む感触が無く心地よい歯応えなのだ。丁度良い苦みが加わり野趣が最高、どんどん食べて尻尾まですべて堪能する。岩魚定食は1匹だが、いつももう1匹追加し2匹で注文する。この美味しさは1匹ではもの足りない。鳥が囀り山吹が色を添える中、白山の岩魚は欠かせない。
転じてお隣の富山県には立山連峰がある。名峰劔岳から続くところ、滑川市に句友の酒井きよみさんが坐忘庵と名付けたお宅に住んでおられる。数年前にお邪魔したら、きよみさん自身が釣った見事な岩魚をご馳走してくれた。後ろは劔岳、前は富山湾から能登半島を望める絶景の坐忘庵、岩魚も格別でした。
大岩魚これを釣つたんきよみさん 淳