今月の花(八月) 西洋菩提樹の花
ラクセンブルグ一帯はかつて貴族の狩猟の場でした。またハプスブルグ家にゆかりがあり、エリザベート、つまりシシーがフランツ ヨーゼフ1世と新婚時代をすごした土地です。「ラクセンブルグ ポルカ」もここの宮殿で生まれたルドルフ皇太子にヨーゼフ シュトラウスからささげられた曲で、2008年ウイーンフィルのニューイヤーコンサートにも演奏されました。
草月流のウイーン支部長のヘルガと彼女の門下でオーストリア在住の日本人Fさんと生い茂る樹々を眺めながら歩きました。まだ青い木の実や草むらの花の名前を教えていただいたり、大きな草刈り機にかられ立ち上る草いきれに記憶をたどりました。
立ち止まったヘルガが、これがリンデンバウム、(別名リンデン)と指さした先は高さ3~40メートルにもなろうかというひときわ大きな木でした。シューベルトの歌曲集、「冬の旅」の中にある(菩提樹)は日本でも知られています。この菩提樹は西洋菩提樹(リンデンバウム)または西洋しなの木という名前です。私たちが知っている、その下で仏陀が悟りを開いたというクワ科のインド菩提樹とは異なります。また、日本の菩提樹は中国原産のしなのき科です。山地に生える大葉菩提樹もありますが、いずれも高さはせいぜい10~20メートルだそうです。
日本ではお寺などに植えられているからなのでしょうか、菩提樹をいけたことがなかったことに私は突然気が付きました。インド菩提樹の代わりに日本のお寺には日本の菩提樹が植えられているのでしょう。その実は数珠にも使われるそうです。
西洋菩提樹は夏にすこし黄色がかった花をかたまってつけ、蜂が蜜を集めにやってきます。でもこの時は先のやや尖った丸い葉の間にも花は見つけられませんでした。七月になろうとする今年のウイーンは異常に暑かったので、花は終わってしまったのかもしれません。
いつも自宅の庭から花材を切ってくるドイツの方に、お庭にこの木はありますか?と聞いたところ「自宅の庭は小さいからとんでもない。リンデンバウムは大きく成長するので街路樹に多いですね」と言われて納得しました。
ヘルガは「あそこにも若木が、あちらにも」と、すっと立っている1メートルほどのリンデンバウムの若木数本を見つけました。ヨーロッパのリンデンバウムの樹齢は千年近くになるものもあり、植物を大切にしたといわれるエリザベートも、この辺りのリンデンバウムを見ていたのでしょうか?もちろん、波乱に満ちた人生が待ち受けていることは彼女にはその時想像するすべもなく。(光加)