二月、バーレーンの日本大使館で催される天皇誕生日のレセプションでいけばなインスタレーションをするため、出かけました。
この国に初の女性大使として赴任した私の門下は、バーレーンは砂漠の小さな国なので桜もしばらく見られないかもと東京で何気なく話していました。「やはり日本の桜は特別ですものね」と言っていたことを思い出し、私のお土産は桜にしようと決めました。
バーレーンの農水省に当たるお役所に日本大使館を通して聞いていただくと、土がついてなければ持ち込み可能、一方日本の植物検疫は、数種の植物の中に虫や卵を見つけるとその箱ごと没収とのこと。成田の植物検疫所に問い合わせると、目的、量、大きさなどを聞かれました。ネットから申請書を出し、何度かの電話とメールのやり取りのなか、桜に付きそうな虫と注意事項を係官が丁寧に教えてくださいました。
二月のはじめ、花屋さんで固いつぼみの枝に虫がいないか、卵は張り付いていないか、数十年のお付き合いのベテランの花屋さんのスタッフと一本ずつチェックをし、枝の元を水代わりのゼリー状の物が入ったビニール袋に入れて規定の箱に収めました。
朝、自宅まで配達してもらい、その日の夜の便でドバイを経由。成田の検疫所の検査時間は予約をしていました。植物の日本語、英語、学名を書いて申告した私の書類には問題なく、チェックを受け、英文の検疫済みの書類も受け取り、箱は預かり荷物にすることで飛行機に積めました。
深夜の首都マレーマ。空港に迎えの大使館の方に車にバケツを積んできてほしいとお願いしたのは、ホテルですぐに桜を水につけるためでした。追加の木瓜と万作と共にホテルで水の入ったバケツに入れましたが、赤い木瓜の蕾はぐったりと下を向いていました。東京から同行した助手のKさんが自室で枝にもっと割を入れるなど回復にあたり、ホテルの冷蔵庫をひとつ空けていただき桜と万作の入ったバケツの保管をお願いしました。
桜たちの顔色を見るのが滞在中の朝食前の習慣となりました。Kさんはうなだれている蕾の周りにテイッシュペーパーをひとつひとつ巻き、水の中で枝を切り直し皮を削りさらに鋏をいれ、回復に成功。
天皇誕生日の当日、金屏風の前で満開になった桜は、数百人の客人をにこやかに迎える大使の横にありました。桜を見たことのないバーレーンの方たちは、この花は何?どこで売っているの?中には造花だと思ったという方もいました。
帰国後数週間、大使から「花が終わると今度は柔らかな緑の芽が出てました、桜は強いのですね」というメールが届きました。あっぱれ!と私は大役を果たしたバーレーンの桜につぶやいたのです。(光加)