東洋のゴーギャンと呼ばれるこの作家の一枚の絵が、私に「アダンの実」を教えてくれました。今回の展覧会のポスターやチケットにはこのアダン(阿檀)の実が描かれた代表作「アダンの海辺」が使われています。1908年に生まれ、1977年に奄美大島で一生を終えた田中一村は、50歳にして絵を描くため首都圏から奄美大島に移住しました。子どもの頃はその画才により神童と呼ばれていました。
東京都美術館の会期は12月1日までありますので、機会があればぜひ足を運んでみてください。植物を中心として、熱帯の島にしかない美しさをふんだんに味わうことができ、島の独特の空気の中、自分の表現を追求しようとする彼の情熱がひしひしと伝わってきます。
私が田中一村の絵を知ったのはずいぶん前の事ですが、アダンの実の実物を見たのは数年前でした。生徒と一緒に開いた展覧会で、お花屋さんに勤めていた一人がこのアダンの実を金色に染めて作品にしたのです。
表面はパイナップルにも似ているけれど、形はパイナップルに比べると丸い。花屋さんの社長さんから、もういらないから持って帰っていいと言われ、色もあまりきれいでなくなったので色を付けました、と彼女。私は熟してオレンジ色になる前の色をみたかったと思ったものです。展覧会の後もらい受けしばらく眺めていましたが、触ると少し柔らかくなり、匂いも出てきたので捨てました。
学名はpanndanus tectorius、タコノキ科、英語でscrew pine。「たこのき」と呼ばれるのは、根がタコの足のように成長していくからだということです。このタコノキ属の名前が「パンダヌス」と言い、同属の小さなものが観葉植物として育てられているそうです。
その一つでしょうか、アダンと同属のパンダヌスの名を冠して売られている葉があります。長さは1.5メートルくらいになり、そのままでは輸送するのに葉が傷ついてはという気づかいからか、鋭角にかくかくと折りたたんでそのままでもいけられるような形にしてもって来られたこともあります。
葉の縁に縦に濃い緑の斑のはいったパンダヌスが、このアダンと近縁だったということを初めて知りました。アダンの実と、このいけばなで使うパンダヌスの関係は、牧野富太郎先生ならずとも「植物学は面白い」と思ったものです。
この十月、年に1回デパートで開かれる展覧会に緑のアダンの実をいけておいでの方がいて「あ、これだ」と観察することができました。お話を聞きたいと思いましたが聞きそびれました。全国はもとより世界から出品者が集まるので、この方も南の島のご出身かなと思ったのです。
南の国の面白い形の実は数えきれないほどあります。田中一村が描き、展覧会でいけられるアダンの実。世界は繋がり広がっていく、と感じる、いけばな作家としてはいけばなをしていてうれしい瞬間でもあります。(光加)