今月の花(1月) 裏白
いよいよ暮れもおしつまると我が家の小さな台所にもあわただしさがあふれます。板の間には煮しめに使う数種類の野菜たちが買い物かごから出されたままごろんと横たわり、煮上がった黒豆の入った鉄鍋には木の蓋が斜めに軽く置かれていました。神棚にそなえるお神酒の瓶子、塩や洗米を入れる白い小皿などが洗い上げられ、ざるに臥せられていました。お屠蘇の器一式を箱から出すときは、黄色くしわになった和紙や古い羽二重の切れ端の間から朱塗りの杯を一年ぶりにとりだして、大事に重ねたものです。
やがて法被姿の鳶の親方が大小のお供え餅やお飾りを長四角の木のお盆に入れ勝手口に現れます。あちこちの家に頼まれて手が足りない時は高校生になった孫が運んできて、母はお駄賃をあげていました。
それからが子供だった私の仕事で、その鏡餅やお供えやお飾りを家の中の定められた場所に飾り付けていくのです。
「鏡餅をのせるお三宝の前と後ろを間違えないでね。裏白も飾りかた、わかっているわね。」
煮物のだしをひいている湯気の中から母の声が飛んできます。
裏白はお供え餅や輪飾りだけでなく門松やしめ飾りに譲葉などともにつけ、正月にはなくてはならないうらじろ科のシダの一種です。葉表の艶のあるほうでなく白い裏を見せて飾ることが不思議でした。
対になった葉は二方向に下がるので夫婦仲良く、裏を見せて飾るのはその色のように二人共白髪になるまで息災でという願いを表すといわれます。内面も隠しごともないように白い葉裏を見せる、ということも聞きました。
春の稽古に出てくる花材の一つ、ぜんまいは先が渦巻き状の新芽が特徴です。このぜんまいは山菜としていただくゼンマイ科のシダとは異なり、実は裏白だということをある日知りました。
巻いた若芽のもとには小さな葉がついていることもあり、よく観察すると形は確かにシダ、あのお正月飾りについていた裏白の葉の小さなものです。すっと伸びた濃茶色の茎は思いのほか固く、切るときには鋏に力が入ります。
シダの仲間の葉はすべての裏が白というわけではありません。新年も何日か過ぎると裏白も乾いて丸まっていきます。少しずついつもの俗世の生活にもどっていくという証拠なのでしょうか。(光加)