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カテゴリーアーカイブ: 今月の花

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今月の花(五月) 銀葉(新芽)

caffe kigosai 投稿日:2025年4月30日 作成者: mitsue2025年4月30日

4月下旬、5年に一度のいけばなインターナショナルの世界大会が京都で開催されました。各流派、世界中のいけばな関係の人々が集まり、家元の皆様のデモンストレーションやワークショップを楽しみ、展覧会には大きなものから小さなものまで力作が並びました。私たちの流派の京都の拠点でも、この機会に教室の展覧会の開催となりました。

多くの作品が並ぶ中、上海から来た生徒がこれは何?と聞いたのは、薄緑の白い葉をもった2メートルほどの枝。それは銀葉でした。実はこの時期にいけばなで使う銀葉と呼ばれるものは裏白の木でばら科です。裏白といえば、正月にお飾りに使うシダを思い出しますが姿も全く違います。

私が初めて見たのは関西でしたが、今では東京のお稽古にも花材として出てきます。少し濃い茶色の枝が曲線を緩く描き、そこに灰色がかった薄緑の葉がついているのは今の時期だけです。枝の脇に小さな蕾がついていましたが、5枚の花弁の1センチほどの白い花が咲くそうです。

原産地は日本で学名はSorbus Japonica、日本という名が付いています。英名はJapanese white beam、又はJapanese moutainashといずれも日本という名称がつきます。ナナカマド属だそうで、ナナカマドもSorbus commixtaという属の学名が付いていますので裏白の木の仲間いうことです。

成長すると10~20メートルの高さにもなるそうですが、私はこの木が秋に楕円形の小さな赤い実を結ぶところを見つけてみたいと思っています。晩秋から冬にかけてお稽古によく使う、鮮やかな赤い実のナナカマドとどう違うのでしょうか。

この時期の葉はふちにギザギザがあり、プリーツのようにおれた線が目立ちます。新芽がたくさん出てくると、濃くなりだした周りのたくさんの緑の中で銀白色が輝き、展覧会でともにいけられた新緑の中でも、中国からの生徒さんの目を引いたわけです。

春に目覚めた初々しい木の葉の中でも最後にやっと芽吹いた、といった葉の色と風情が私のお気にいりです。(光加)

今月の花(四月)サクラサク バーレーン《番外編》

caffe kigosai 投稿日:2025年3月25日 作成者: mitsue2025年3月25日

二月、バーレーンの日本大使館で催される天皇誕生日のレセプションでいけばなインスタレーションをするため、出かけました。

この国に初の女性大使として赴任した私の門下は、バーレーンは砂漠の小さな国なので桜もしばらく見られないかもと東京で何気なく話していました。「やはり日本の桜は特別ですものね」と言っていたことを思い出し、私のお土産は桜にしようと決めました。

バーレーンの農水省に当たるお役所に日本大使館を通して聞いていただくと、土がついてなければ持ち込み可能、一方日本の植物検疫は、数種の植物の中に虫や卵を見つけるとその箱ごと没収とのこと。成田の植物検疫所に問い合わせると、目的、量、大きさなどを聞かれました。ネットから申請書を出し、何度かの電話とメールのやり取りのなか、桜に付きそうな虫と注意事項を係官が丁寧に教えてくださいました。

二月のはじめ、花屋さんで固いつぼみの枝に虫がいないか、卵は張り付いていないか、数十年のお付き合いのベテランの花屋さんのスタッフと一本ずつチェックをし、枝の元を水代わりのゼリー状の物が入ったビニール袋に入れて規定の箱に収めました。

朝、自宅まで配達してもらい、その日の夜の便でドバイを経由。成田の検疫所の検査時間は予約をしていました。植物の日本語、英語、学名を書いて申告した私の書類には問題なく、チェックを受け、英文の検疫済みの書類も受け取り、箱は預かり荷物にすることで飛行機に積めました。

深夜の首都マレーマ。空港に迎えの大使館の方に車にバケツを積んできてほしいとお願いしたのは、ホテルですぐに桜を水につけるためでした。追加の木瓜と万作と共にホテルで水の入ったバケツに入れましたが、赤い木瓜の蕾はぐったりと下を向いていました。東京から同行した助手のKさんが自室で枝にもっと割を入れるなど回復にあたり、ホテルの冷蔵庫をひとつ空けていただき桜と万作の入ったバケツの保管をお願いしました。

桜たちの顔色を見るのが滞在中の朝食前の習慣となりました。Kさんはうなだれている蕾の周りにテイッシュペーパーをひとつひとつ巻き、水の中で枝を切り直し皮を削りさらに鋏をいれ、回復に成功。

天皇誕生日の当日、金屏風の前で満開になった桜は、数百人の客人をにこやかに迎える大使の横にありました。桜を見たことのないバーレーンの方たちは、この花は何?どこで売っているの?中には造花だと思ったという方もいました。

帰国後数週間、大使から「花が終わると今度は柔らかな緑の芽が出てました、桜は強いのですね」というメールが届きました。あっぱれ!と私は大役を果たしたバーレーンの桜につぶやいたのです。(光加)

今月の花(三月)生命の木

caffe kigosai 投稿日:2025年2月24日 作成者: mitsue2025年2月24日

この二月、バーレーンの首都、マレーマで仕事が終わり、空港に向かうまで時間があったので「生命の木」を見てきました。

ここにもあったのだ!というのが私の感想でした。「Tree of Life」と呼ばれる不思議な木は他の国にもあり、それぞれパワースポットになっていることは聞いていました。いずれも長い年月そこにあり、土地の人々にとって特別なシンボルツリーとして存在しているのだそうです。御神木は日本でも時々見かけますが、私にとっては初めての生命の木との出会いでした。

バーレーンは島で、国土も小さく琵琶湖くらいと言われています。石油が採れることがこの島を経済的に豊かにしていて、人口の半分が他国から働きに来ているのだそうです。砂漠からの砂が舞い上がり、雨も少なく真っ青な空が見られることはめったになく、大きな太陽が薄グレーの空に薄オレンジ色となって消えていきます。

車は歩道のない街の大道路からやがてパイプラインが張り巡らされる砂漠へと進んでいきます。周りには緑もなく、山も見えず。原油が採掘されている証か、ちらちらと櫓から炎が出ているのがところどころ見えました。時々、バンガローと書かれた小さなテント小屋の集まりを過ぎていきます。観光客用、またはここで働いている人たちのもの?と思っていると「ほら、見えた」と運転手さん。

10メートルもないような砂丘の上に悠々と四方八方に手を広げ、私たちを出迎えているかのような一本の木。周りには土産物屋も売り子もいない。丘に上って見ている人も数人。木の周りだけ柵があり、ガードのような人が一人。ぐるぐるに頭部を巻いて目だけでているのは砂埃から守るためでしょうか。足元に気を付けながら砂の丘を登ってたどり着いた木は、高さは5mくらいですが周りの広がりは直径10メートルではきかないでしょう。

ごつごつしている枝の先には、薄緑のねむの木のような葉がついていました。柔らかな新芽は、樹齢400年というこの木がこれからも成長していくことを表していました。木はProsopis cineraria、英語でPersian mesquite またはGhaf。砂の下10~40メートルに地下水が流れ、地下茎が達しているという人もいます。バーレーンはエデンの園があったという伝説があり、聖書では楽園の中央にTree of Life、生命の木が立っていたということからなぞらえているのでしょうか。

宗教的な意味がある図形のTree of Lifeもあることを思い出しました。西アジアにも同様な木があることを知りました。でもこの木は、雨の極端に少ないこの地域にこんな大木になって立っているのは奇跡です。表皮が少しささくれているような古い枝を撫でて、パワーをください、と念じてきました。(光加)

今月の花〈二月〉 連翹

caffe kigosai 投稿日:2025年1月30日 作成者: mitsue2025年1月30日

ウクライナの連翹

1センチにもならない茶色の蕾の先にかすかに顔をだした黄色は花びらの一部。初めてこの枝をいける生徒さんは連翹を手にして 「これは曲げることができますか?」と聞きます。

春のいけばな教室の何時もの光景です。私は、「やってごらんなさい」とアドバイス。

やがてぱちんという小さな音と、「あ!」という声。意地悪をしているのではありません。こうやって、失敗しながら手に覚えさせていくのです。

連翹は枝の中心の部分が空洞になっていて、曲げようとしても折れやすく、枝ぶりの美しさをそのまま使うのが一番なのです。

鮮やかな黄色のこの花木(かぼく)は、春の代表的な花材の一つ。他にも山茱萸や万作などは葉が出る前の枝に黄色い花が付き、1月の中頃から花市場に登場します。

季節が進むと、その黄色の鮮やかさが春の青い空に映えます。

ヘルシンキ、オーストリア、韓国、ドバイ。私は連翹の花をいけた土地とそれぞれの「レンギョウ」の姿を思い出します。いずれの土地でもそんなに高い木にはなりません。

すっと伸びた枝を持つもの、蔓のようになったものなど様々で、しだれた黄色い花の枝が地に着くとそこから根を下ろすという生命力の強いモクセイ科の中国原産の植物です。

いけばなに必要な線の要素を持つものとして、ありがたい存在です。夏季にはげんなりする暑さの中でも緑の葉が出て、この時期の数少ない緑の枝ものとしてお稽古に使われます。

シナ連翹の変種といわれる朝鮮連翹、また、シナ連翹とレンギョウを掛け合わせたものがドイツで栽培されており、黄色い大きな花を咲かせると聞きました。

私がオーストリアで見たものはこの種類だったのでしょうか。

ある日お稽古の途中で、一人の生徒が携帯を開いて「これと同じでしょう?」と声をかけてきました。ウクライナの出身の方で、以前可愛いお嬢さんをつれて来たことがありました。

写真は鮮やかな黄色の花の壁。「きれいねえ!!日本のより、花が大きいわねえ」「端に写っているのはお嬢さん?」。いけていた人たちも手を止めて携帯の画面をのぞき込みました。

彼女の家は首都キーウから車で4時間ほど。「家の近くの道に咲いていたけれど、今はもう、危なくて帰れない」とすこし声を落としました。

いつかこの季節、あふれるばかりに黄色に咲き誇っている花の道を一家で散歩することが早くできるように、と心から願うのでした。
(光加)

今月の花〈一月〉蛇の目松・若松

caffe kigosai 投稿日:2024年12月27日 作成者: mitsue2024年12月29日

福島光加の作品
(左が蛇の目松)

12月に入ると、花市場ではお正月に飾る松市が開かれます。月初めの日曜かそのあとの日曜日で、何日かして千両市があります。

「今年の松は色がでている」「小ぶりだ」などの情報が入り、月末のお正月花のお稽古に生徒さんたちが松を決める時に役に立ちます。私の先生の代からお付き合いのある花屋さんの、知り合って何十年のスタッフに「先生、今年は蛇の目松はとても高いですよ!」と言われたときは驚きませんでした。いつまでも続いた夏の異常な暑さは、人間だけでなく植物にいままでにない影響を及ぼしたことは、花が高くなっていることからも想像はつきました。

大王松、若松、根引きの松、五葉松のほかそれぞれに表情のある松をいけるのは年末の楽しみです。その中でも来年は巳年なので蛇の目松をいけると決めていました。蛇の目松は中心から黄色い葉が先に行くほど緑になります。去年は、葉がたくさんしっかりとついていて、枝も微妙な曲線を描く蛇の目松を手に入れることができました。私の住んでいる東京では松を飾るのは松の内、つまり1月7日でおしまい、というのが正式らしいのですが、近年になく美しかったので年神様を粗末にしては罰が当たる、という理由をつけて1月の最後の週まで飾っていました。

「日本は照葉樹林文化、冬になって葉が散ってしまう樹々が多い中、常緑樹の松の姿に神聖なものを感じたのでしょう」と、なぜ新年に松をいけるのかを教室の外国の方たちに説明しました。日本の神様は一神教でないからGodではなく小文字のgodあるいはgodsで、新しい年は松に年神様をむかえて始まるのです、と。

日本の植物にもいろいろな意味があるのね、と言ったのはウクライナの3人のお子さんを持つお母さん。彼女は自分の国でデイドウクと呼ばれる、クリスマスにテーブルの真ん中に置く麦の束の飾りを持ってきてくれました。ウクライナは世界でも知られた麦の生産国です。手作りの飾りには国旗の色の青と黄色の小さな花がちりばめられていました。

彼女たちには生えてから3~4年の若松をいけてもらいました。今年の若松は房が美しく、酷暑の夏をこしてもきれいな緑色でした。ふと見ると、中のひとりが片端から若松の房を曲げています。半年前に日本に来た方で、お正月を迎えるのは初めてです。「なぜ曲げるの?すっとした姿で葉も色もきれいでしょう?」と言うと、なんだか単純だからと言います。私の英語の説明が不十分だったのだろうか。初めてならまずこの房の形を生かした方がいい、と言いかけて、複雑な思いが私の内をよぎりました。本当なら大学生活を満喫している年齢です。自分の思い通りになる植物。そして居たい場所にいられない自分。

日本のお正月の、街角の門松や飾りやいけばなを見て、次の年にお正月花をいけるときには彼女は変わっているだろうか。状況が好転して日本を出ているだろうか。

私は去年素敵な蛇の目をいけたので、今年は緑の房が特に美しい若松をその特徴を生かし、世界の平和を願っていけることにしました。

今年も私の植物の物語にお付き合いいただきありがとうございました。皆様にとって来年がより良い年となりますよう。(光加)

今月の花(十二月) ひいらぎ南天

caffe kigosai 投稿日:2024年11月29日 作成者: mitsue2024年11月29日

そろそろ年賀状はどうしようか、と新しい年を意識するようになるころ、いけばなに関係している私は南天を思います。南天と呼ばれる植物でも、全く別の種類や科が違う南天もあります。

飯桐南天はイイギリ科で、水平に伸びた枝から赤い実の房が下がる風情がなんとも言えなく気に入っていますが、十一月も末となると枝物を扱う花屋さんでも、なかなか手に入りません。運よく購入した実の付いた枝をとっておいて、乾いてもまだ光沢のある実だけを使っていけることになります。赤い色は葉が落ちた自然の中でよく目立つので鳥がついばむのでしょう。

新年には祝い花としてつやつやとした赤い実を付けた実南天をかざり、実の周りに放射状に延びた脇枝についた、先のとがった葉も鑑賞します。難を転じる、ということで 家の鬼門に植えたりすることがあります。赤だけでなく、白い実の南天もあります。葉は、箱に入ったお赤飯にも添えられます。これはメギ科の植物に分類されます。

その前に稽古に出てくるのがメギ科の細葉ひいらぎ南天。いけばなでは岩南天と呼ばれます。岩南天という植物はつつじ科で他にあり、しばしば混同されます。稽古に使うものはごつごつとした茶色の木肌で、切れば中は黄色く、葉は厚め。色の変わらない緑の葉先がとがっていて、手にチクり、と刺さるので気を付けます。花は黄色で秋に咲きます。あまり曲線を描かないので、初歩の方たちのお稽古に「枝先に着いた葉の位置を目安に、枝を何度の角度に傾けていけてください」と指示するのにわかりやすいのです。

さて、私の一押しは、メギ科の「ひいらぎ南天」です。茎の先に集まって着く葉がダイナミックに360度展開するところが気に入っています。ひいらぎの葉のように光沢のあるその葉を見ると、ひいらぎと同じように(近寄るな!さすぞ!)と言わんばかりに尖った部分があります。

花が咲くのは春で、小さな黄色の花が房のように付きます。やがて秋も深くなり、ひいらぎ南天が紅葉し始めると白い粉を薄くまとったような黒い実が結ばれているのを見ることがあります。

葉は黄色や赤となり、やがて茶色になっていきます。こうなると紅葉する植物の宿命で落ちていきます。その前の、大ぶりで大きく曲がった枝の先の、歌舞伎役者がパッと見得を切ったように広がった葉の姿がカッコいい!と思わせる、ひいらぎ南天です。いよつ!!千両役者!(光加)

今月の花(番外編) アダンの実

caffe kigosai 投稿日:2024年10月30日 作成者: mitsue2024年10月30日

「田中一村展」が東京都美術館でひらかれています。

東洋のゴーギャンと呼ばれるこの作家の一枚の絵が、私に「アダンの実」を教えてくれました。今回の展覧会のポスターやチケットにはこのアダン(阿檀)の実が描かれた代表作「アダンの海辺」が使われています。1908年に生まれ、1977年に奄美大島で一生を終えた田中一村は、50歳にして絵を描くため首都圏から奄美大島に移住しました。子どもの頃はその画才により神童と呼ばれていました。

東京都美術館の会期は12月1日までありますので、機会があればぜひ足を運んでみてください。植物を中心として、熱帯の島にしかない美しさをふんだんに味わうことができ、島の独特の空気の中、自分の表現を追求しようとする彼の情熱がひしひしと伝わってきます。

私が田中一村の絵を知ったのはずいぶん前の事ですが、アダンの実の実物を見たのは数年前でした。生徒と一緒に開いた展覧会で、お花屋さんに勤めていた一人がこのアダンの実を金色に染めて作品にしたのです。

表面はパイナップルにも似ているけれど、形はパイナップルに比べると丸い。花屋さんの社長さんから、もういらないから持って帰っていいと言われ、色もあまりきれいでなくなったので色を付けました、と彼女。私は熟してオレンジ色になる前の色をみたかったと思ったものです。展覧会の後もらい受けしばらく眺めていましたが、触ると少し柔らかくなり、匂いも出てきたので捨てました。

学名はpanndanus tectorius、タコノキ科、英語でscrew pine。「たこのき」と呼ばれるのは、根がタコの足のように成長していくからだということです。このタコノキ属の名前が「パンダヌス」と言い、同属の小さなものが観葉植物として育てられているそうです。

その一つでしょうか、アダンと同属のパンダヌスの名を冠して売られている葉があります。長さは1.5メートルくらいになり、そのままでは輸送するのに葉が傷ついてはという気づかいからか、鋭角にかくかくと折りたたんでそのままでもいけられるような形にしてもって来られたこともあります。

葉の縁に縦に濃い緑の斑のはいったパンダヌスが、このアダンと近縁だったということを初めて知りました。アダンの実と、このいけばなで使うパンダヌスの関係は、牧野富太郎先生ならずとも「植物学は面白い」と思ったものです。

この十月、年に1回デパートで開かれる展覧会に緑のアダンの実をいけておいでの方がいて「あ、これだ」と観察することができました。お話を聞きたいと思いましたが聞きそびれました。全国はもとより世界から出品者が集まるので、この方も南の島のご出身かなと思ったのです。

南の国の面白い形の実は数えきれないほどあります。田中一村が描き、展覧会でいけられるアダンの実。世界は繋がり広がっていく、と感じる、いけばな作家としてはいけばなをしていてうれしい瞬間でもあります。(光加)

今月の花(十月) 珊瑚みずき

caffe kigosai 投稿日:2024年9月29日 作成者: mitsue2024年9月29日

門下の「珊瑚みずき」のいけばな

フィンランドのCornus

秋になって紅葉する葉はたくさんありますが、サンゴミズキの場合は枝や茎の独特の赤が映えるようになり、その色から「珊瑚みずき」と呼ばれます。直線の枝は曲げることもできるので、私はクリスマスの壁の飾りに土台を兼ねて枝を曲線にして使うこともあります。いけばなで使うのは白玉みずきの変種であるこの「珊瑚みずき」が多いのです。

6月の中旬、フィンランドにワークショップをしに行きました。グループをまとめている門下のⅬさんは 航空会社のCAとして来日。そのつど東京の私の教室でいけばなを熱心に勉強し、もう30年にもなるでしょうか。定年と同時に母国フィンランドで自分のスタジオを立ち上げ、要請があれば地方の都市にもいけばなを広めに出かけていきます。

彼女とその仲間にとっての大きな問題は、この北の地での枝物の入手です。花市場ではユーカリやヒバなど、何時も同じものばかり。そんな時は、彼女のグループのメンバーの「あそこの土地にいけばなに使えそうな枝がある」という情報が役に立ちます。今回も彼女の片腕で7歳からいけばなをはじめたヘレナが「Cornusが花をつけている」とある場所を教えてくれました。

CornusとはCornus alba Sibrica、「珊瑚みずき」のことだろうか?連れて行ってくれた場所には葉をつけた2メートルほどの高さの枝が固まって生えていました。柔らかい葉の下は浅緑のまっすぐな枝が伸びていて、頭部に小さな白い花が固まって付いていました。

日本で冬が終わった時に「珊瑚みずき」の赤い枝に小さな新芽が出てきた姿を見ていますが、こちらは形は同じでも茎の色が全く違っていました。

「珊瑚みずき」はミズキ科ミズキ属。白玉みずきの園芸種です。英名はSiberian dogwood。この名からわかるように寒い地域にも生えているので、地続きのフィンランドにもひょっとして仲間があるのでしょうか。

私がフィンランドで見たのは「黄金みずき」という種類なのかもしれません。冬になるとこの種類は入手困難ですが、日本の初夏に枝や茎が黄緑色の「黄金みずき」をいけることがあります。もともと白玉みずきは園芸種が多く、葉に斑がはいるエレガンティッシマという種類もあり、実も変わったものや、赤い色のより鮮やかなものもあるそうです。

九月、東京の教室で門下が色づいた曲げやすい「珊瑚みずき」をいけました。夏の終わりがやっときて秋というにはまだまだの気候ですが、それでも冬が遠い先にかすかに見えてきたような気がしました。

フィンランドの、どこまでも青い夏の空を懐かしく思い出しながら、あの柔らかな茎をもった植物は本当に「黄金みずき」だったのかと時々思います。正解がでないまま、気がつけばクリスマスのシーズンに突入していそうです。(光加)

今月の花(九月) パンパスグラス

caffe kigosai 投稿日:2024年8月28日 作成者: mitsue2024年8月29日

小さな実をたくさん付け、弧を描く「野茨」の枝、丸い葉と蔓の間に薄緑の丸い実をつけた「山帰来」がそろそろ花材として現れるころ、暑さのためにしばらく休みにしていたお稽古を再開しました。

花材として届けられた中に「パンパスグラス」がありました。包みの中から、若い緑色のまっすぐな茎が出ていて、先に行くにつれて細くなり、瑞々しく、勢いを感じさせる秋の花材のひとつです。長さは1メートルをはるかに超えます。

丸い鞘の周りに、鋏で注意深くやや深めの線を入れていき一周させます。この線の一か所に鋏の先をあて、鋏の片方の刃をさしこみ一気に線を入れます。すると鞘を作っている表皮が落ち、花があらわれます。

どこに線を入れるかにより、穂の長さが決まってきます。現れた少し青臭い銀緑の花穂に「あら、きれい!珍しいからもうこのままの長さで切りたくない」、出てきた花穂を傾けて下がり具合を見ながら「どの花器にしようかしら」、曲げられないまっすぐな線を見ながら「立派ね。このまま剣山に刺しても安定するかしら」などなど、教室のあちこちで声が上がります。

パンパスグラスはイネ科です。原産地は南アメリカですが、今ではニュージーランドなどの水はけのいい、温暖な気候の地域でも見かけます。ひとつの株からたくさんの茎を出す多年草で、大きいものは3メートルの高さにもなります。羽のようにふさふさとした花序が集まって一斉に揺れる様はなかなかいい光景で、風に揺れればその存在がぐっと増すことでしょう。それは気持ちよい秋風の様子でしょう。

すこし紅色がかったものもありますが、改良品種でしょうか。明治に日本に入り、庭などに植えられたそうです。いけばなで使う、乾かして着色をしたイタリアンパンパスもこの仲間です。

パンパスグラスは雌雄異株で、立派な花序をつけるのは雌株なのだそうです。この名は英語名ですが、もともとパンパスグラスはスペイン語で大草原〔pampa(パンパ)〕の草という意味だそうです。

そう、昭和の方ならおそらくご存じの、アルフレッド・ハウゼ楽団の「さらば草原よ」というタンゴの名曲がありました。こちらはスペイン語で(Adios Pampa Mia)。秋今宵、お稽古であまったパンパスグラスをいけて、風そよぐ銀色の花穂が揺れる大草原に思いを馳せてみましょうか。何十年か前に聞いたこの曲を、今はネットで探して。(光加)

今月の花(八月) 西洋菩提樹の花

caffe kigosai 投稿日:2024年7月28日 作成者: mitsue2024年7月31日

ラクセンブルグの西洋菩提樹(写真の右上に実がみえます)

ウイーンから車で30分ほどのラクセンブルグ(Laxenburg)。広大な公園に犬を連れた人や子供たちと散歩中のご夫婦。樹々の間を渡ってくる爽やかな空気を吸い込みながらゆったり時が過ぎていくと感じるのは、今回のいけばなの仕事の旅がウイーンですべて終わったからでしょうか。

ラクセンブルグ一帯はかつて貴族の狩猟の場でした。またハプスブルグ家にゆかりがあり、エリザベート、つまりシシーがフランツ ヨーゼフ1世と新婚時代をすごした土地です。「ラクセンブルグ ポルカ」もここの宮殿で生まれたルドルフ皇太子にヨーゼフ シュトラウスからささげられた曲で、2008年ウイーンフィルのニューイヤーコンサートにも演奏されました。

草月流のウイーン支部長のヘルガと彼女の門下でオーストリア在住の日本人Fさんと生い茂る樹々を眺めながら歩きました。まだ青い木の実や草むらの花の名前を教えていただいたり、大きな草刈り機にかられ立ち上る草いきれに記憶をたどりました。

リンデンバウムの花

立ち止まったヘルガが、これがリンデンバウム、(別名リンデン)と指さした先は高さ3~40メートルにもなろうかというひときわ大きな木でした。シューベルトの歌曲集、「冬の旅」の中にある(菩提樹)は日本でも知られています。この菩提樹は西洋菩提樹(リンデンバウム)または西洋しなの木という名前です。

私たちが知っている、その下で仏陀が悟りを開いたというクワ科のインド菩提樹とは異なります。また、日本の菩提樹は中国原産のしなのき科です。山地に生える大葉菩提樹もありますが、いずれも高さはせいぜい10~20メートルだそうです。

日本ではお寺などに植えられているからなのでしょうか、菩提樹をいけたことがなかったことに私は突然気が付きました。インド菩提樹の代わりに日本のお寺には日本の菩提樹が植えられているのでしょう。その実は数珠にも使われるそうです。

西洋菩提樹は夏にすこし黄色がかった花をかたまってつけ、蜂が蜜を集めにやってきます。でもこの時は先のやや尖った丸い葉の間にも花は見つけられませんでした。七月になろうとする今年のウイーンは異常に暑かったので、花は終わってしまったのかもしれません。

いつも自宅の庭から花材を切ってくるドイツの方に、お庭にこの木はありますか?と聞いたところ「自宅の庭は小さいからとんでもない。リンデンバウムは大きく成長するので街路樹に多いですね」と言われて納得しました。

ヘルガは「あそこにも若木が、あちらにも」と、すっと立っている1メートルほどのリンデンバウムの若木数本を見つけました。ヨーロッパのリンデンバウムの樹齢は千年近くになるものもあり、植物を大切にしたといわれるエリザベートも、この辺りのリンデンバウムを見ていたのでしょうか?もちろん、波乱に満ちた人生が待ち受けていることは彼女にはその時想像するすべもなく。(光加)

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「カフェきごさいズーム句会」のご案内

「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

  • 第二十六回 2025年5月10日(土)13時30分(原則第二土曜日です)
  • 前日投句5句、当日席題3句の2座(当日欠席の場合は1座目の欠席投句が可能です)
  • 年会費 6,000円
  • 見学(1回・無料)も可能です。メニューの「お問い合せ」欄からお申込みください。
  • 申し込みは こちら からどうぞ

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飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
岩井善子(いわいよしこ)

5月生まれのふたご座。華道池坊教授。句集に『春炉』
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4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
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12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
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同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
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5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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