風邪をひく人が増えてきました。酷暑疲れが拭いきれないうちに、寒暖差の激しい天候とさまざまなウィルスの跋扈にさらされ、抗しきれなくなったようです。新型コロナウィルスも決しておとなしくなったわけではありません。あれにもこれにも気を付けよ、といわれる昨今。結局のところ、自身の免疫力が頼みということでしょうか。
忌々しい〈風邪〉ですが、冬の季語です。ひいてしまったら、詠みましょう。
風邪の子の餅のごとくに頰豊か 飯田蛇笏
風邪ひけば二重まぶたになる子かな 鶴岡加苗
とほくから子供が風邪をつれてきぬ 鴇田智哉
この子はこんなにもちもちの肌であったか、とか、まぶたが二重になっているわ、やっぱり具合が悪いのね、とか、日ごろの元気な姿を知っているがゆえの気づきがあります。子や孫を看病しているうちに、風邪をもらってしまうことも多く、子どもがケロリとするころ、大人が寝込むこともよくあります。
年よりは風邪引き易し引けば死す 草間時彦
大げさなと思った方はまだ「年寄」ではないのでしょう。ですが、年は取ってみないと分からないもの。しかと覚えておきましょう。
風邪の身を夜の往診に引きおこす 相馬遷子
かぜの子に敬礼をして風邪心地 細谷喨々
医師俳人の句です。仕事柄、貰い風邪も多いに違いありません。安静が一番の良薬のはずなのに、往診に夜道へ出てゆく遷子。子どもがひくのは「かぜ」、よこしまな大人がひくのは「風邪」と使い分ける喨々は、小児科の医師です。
店の灯の明るさに買ふ風邪薬 日野草城
迷惑をかけまいと呑む風邪薬 岡本眸
風邪ごこち薬なければ白湯飲んで 中坪達哉
明るい薬局と暗い薬局があれば、明るいほうを選ぶかもしれません。なんといっても気の持ちようが大事。眸も、これを呑めば大丈夫、治る治ると暗示をかけて服用したことでしょう。達哉の、薬の代わりに白湯というのは理に適っていると思います。大方の不調は冷えによるものらしいです。身体を中から温め、休めれば、「風邪ごこち」は消えてしまいそうです。
一輪の薔薇に去りゆく風邪の神 山口青邨
薔薇で治るのは珍しい例かもしれませんが、お見舞いと深紅の薔薇(と勝手に決めている)を差し出されたら、ぱあっと心が明るくなることでしょう。
薬ではありませんが、効くとされるものに〈玉子酒〉があります。
かりに着る女の羽織玉子酒 高浜虚子
「女」の前で〈嚏〉でもしたのでしょうか。風邪も方便になるのかもしれません。
亡き母に叱られさうな湯ざめかな 八木林之助
まずいと認識しながら改められない習慣もあります。一度風邪をひいてしまうと、気を付けるようになるのですが。ひいてしまったら保温と睡眠、そして作句を薬として治るのを待つことにしましょう。(正子)