今月の季語(五月) 夏の嫌われ動物①
万物にエネルギーが充填され、今にも溢れ出しそうなこのごろです。私たちにとっては必ずしも歓迎できない生き物もまた活動的になってきました。今月は夏の季語となっている「嫌われもの」を並べてみます。
俳句においては植物以外が動物です。毛物(獣)だけでなく、虫や魚、爬虫類両生類など、すべての命をもって動く物をさします。さてあなたは何が「嫌い」ですか?
たとえば〈孑孒(ぼうふら)〉。ご存知〈蚊〉の幼虫です。近年ジカ熱、デング熱と次々に耳慣れない感染症の存在を知ることとなりました。
孑孒の地蔵の水の他知らず 山尾玉藻
蚊が一つまつすぐ耳へ来つつあり 篠原 梵
私も主婦の顔をしているときは見つけたら即座に水ごとひっくりかえします。が、ひとたび句帳を手にするとその繰り返される上下運動をうっとり見つめてしまいます。孑孒は俳人好み? と思えるほど例句も多いです。
一方句帳を持っているときでも、絶対に許せないのがこれでしょうか。外でお目にかかったことがないからかもしれません。
ごきぶりを打ち損じたる余力かな 能村登四郎
〈蚤(のみ)〉〈虱(しらみ)〉は、現代では縁の薄いものとなりましたが、『おくのほそ道』のこの句は不滅です。
蚤虱馬の尿する枕もと 芭蕉
できれば書物の中だけで、と願います。書物といえば〈紙魚(しみ)〉も夏の季語です。古い書物を開いたときに走り出てくる銀色の虫です。〈雲母虫(きらら)〉とも呼ばれます。
ひもとける金槐集のきらゝかな 山口青邨
本来益虫でありながら、不気味に思われることの多い〈蜘蛛〉も、その散り方が比喩になっている〈蜘蛛の子〉や〈蜘蛛の囲/巣〉とともに、夏の季語です。
蜘蛛多芸なり逆上り尻上り 大橋敦子
蜘蛛の子のみな足もちて散りにけり 富安風生
蜘蛛の囲の向う団地の正午なり 永島靖子
土を肥やしてくれる有り難い生き物ながら、あまり好かれていない〈蚯蚓(みみず)〉も夏です。
前世は竜でありしと蚯蚓言ふ 高田風人子
土の中から、桃色のつやつやした蚯蚓が勢いよく飛び出してくると、私は嬉しくなります。ちなみに〈蚯蚓鳴く〉という〈秋〉の季語もあります。もちろん蚯蚓は鳴きません。が、引き合いに出されるくらいですから、蚯蚓もまた俳人好みなのかもしれません。
蚯蚓鳴く六波羅蜜寺しんのやみ 川端茅舎〈秋〉
(正子)